コンプを使う理由、ツマミの効果と来て3回目の今回は、いよいよ「コンプの設定方法」です。
大体の講座だと「使い方は以上です。あとは実際に使って慣れよう!」とファミ通の攻略本みたいな終わり方をするのが常ですが、そうなる理由は「使う対象や目的ごとに設定値が違いすぎて一概には言えない」から。
ネットや書籍で「ギターのコンプ設定」みたいな数値を見かけることもありますが、それはあくまで傾向としての話であり、現実として、カッティングとパワーコードで同じ数値に設定することはほとんどないでしょう。
やはり最終的には「目的に合致した効果を得られる数値」を自分で設定できるようになる必要があるわけです。
そこで今回は、どんな音源にも目的に沿った数値を設定できる手順というものを紹介したいと思います。
特にコンプに馴染みのない初心者にとっては、1つのセオリーとなるので有効です。
この手順に従って音を聴きつつ設定することで狙った通りの効果が得られ、テストの点は向上し、部活も上手くいって志望校に合格してしまうことも夢ではありません。
おススメの設定手順
「ARRT」とも呼ばれる手法です。NERVみたいでカッコいいですね。
すなわち、Attack→Release→Retio→Thresholdの順で設定するという手法。
スレッショルドを下げれば下げるほど深くコンプが掛かるので、最初に他のツマミで「どういう感じに圧縮するか?」を設定しておき、「その効果をどれだけ強く出すか?」をスレッショルドの下げ幅で決める、というやり方です。
そしてこれに、「ツマミの設定値を極端にする」という手法を加えます。
具体的な手順は以下のとおり。
- 全てのパラメータを極端に大きく(最速、最大など)設定する
- アタックが欲しい程度出てくるまで、Attackを下げていく
- 音の重さが欲しい程度出てくるまで、Releaseを速くしていく
- 潰している感じ(コンプ感)がどれだけ欲しいか?でRetioを決める
- 上記の効果をどれだけ強く出すか?をThresholdで調整する
①で全てのツマミを極端な設定にしておくことで、各ツマミの効果がわかりやすくなり、求める設定に辿り着きやすくなります。
ポイントは「ツマミを調整する時は曲全体を再生して聴きながらやる」ということ。
どんな音も最終的にはミックスの中で鳴ることになるので、他の音との干渉具合を確かめながら調整する方が良い結果になりやすいのです。
目的別の設定方法
上記の手順を踏まえて設定すれば、少なくとも「自分の目的に沿った設定」には行きつけるようになります。
その上で「コンプを掛ける目的」から逆算した設定方法も代表的なものをいくつかまとめておきます。
コンプの効果が感覚的に掴めてきたら試してみてください。
音圧を出す、音を後ろに追いやる
この場合、音圧を出す妨げになりやすく、存在感の源でもあるアタックを削る方向のアプローチになります。
ちなみに「何故アタックにそういう性質があるのか?」に関しては第2回の記事を参照してください。
アタックを抑え込むのが目的なので、基本的にAttackは最速、Retioは効果が分かる程度に高めに設定する必要があります。
Releaseは次の音に被らない程度にしておくか、逆にメタルのギターなどでガッチリ固めたい場合は長めに設定してかかりっぱなしにするのもアリでしょう。
最後にThresholdでかかり具合を調整します。
アタックの部分だけ引っかかる程度に設定するとちょうどいい効果になることが多いですが、他の楽器との兼ね合いをよく聴くことが最も重要です。
音のヌケを良くする、前に出す
上記とは逆に、アタックを強調することで音の存在感を出すような処理になります。
考え方としては「リリースを抑えることで相対的にアタックが強調されるようにする」というものです。
したがって、Attackはアタックがしっかり残るまで遅めに設定し、Releaseは長めに設定して余韻をしっかり潰します。
この時、次の音にリリースが被らないように注意しましょう。せっかく作ったアタックがまたならされてしまいます。
RetioとThresholdは高く・深くするほどアタックが強調されますが音が軽くなっていくので、曲を聴きながらちょうどいいところに設定します。
ミックスが濁る、モワモワするのを取り除く
ミックスの濁りは、その原因である余韻を切って音を整理することで改善できます。
つまり上の「音のヌケを良くする、前に出す」の処理をすればいい、ということになりますが、ここで曲中の全てのパートに対してそうしてしまうとアタックばかりが残った軽い印象のミックスになってしまうのです。
ではどうするかと言うと、曲中のパートに優先順位をつけて処理する方法がおすすめです。
メタルではギター、バラードではピアノ、スウィングならブラス……といった感じで、その曲で目立つべきパートを1~2個に絞り、それ以外の比較的重要でないパートの余韻を切ることで帯域を整理するのです。
前回の記事でも書いた通り音のキャラクターはアタックに多く含まれるので、重要でないパートはアタックだけを残すことで存在感は残しつつ、ミックスの邪魔をしないように処理することができるという寸法です。
実を言うとこの処理、この雑誌で知って実践したらすごく効果があったやり方だったりします。
サンレコと言えばDTMer界のジャンプみたいな立ち位置なのでもうご存知かもしれませんが、プロのノウハウってやっぱすごいですね。(小並感)
重要視すべきは「目的」
コンプに限らないかもしれませんが、プラグインの設定にはその先に到達したい「目的」があることが重要です。
特に初心者のうちは「皆使ってるしコンプ使わなきゃ(使命感)」という義務感のような感情が先行しがちですが、本質としては、
ボーカルの音量差を縮めたい、ドラムをパツパツにしたい、ピアノの存在感を出したい。
そういう混じりけの無い”願い”を叶えるための手段がプラグインなのです。
僕もDTMを始めて数年経ちますが、未だにそのことをよく忘れます。セールという言葉に勝てたことが一度もありません。
プラグインというものは何せ高いので、掛けたら勝手に音が良くなることをどうしても期待してしまいますが、あくまでイメージの音に仕上げるための道具であることを忘れないようにしたいものです。