EQで2kHzをブーストした音 ←わかる
リバーブを深くかけた音 ←わかる
コンプで3db潰した音 ←!?wWW?!?wwwWW?wwW?!WW??
音をシャリシャリさせたりお風呂みたいにしてキャッキャしていた初心者DTMerの前に突如現れる難問、コンプレッサー。
明らかにキャラが立っているEQやリバーブなんかに比べて効果が地味すぎるため、内心(コレいらなくね?)と思ってしまいやすいエフェクターの筆頭だと言えるでしょう。
しかしネットでは何故か皆揃って使っているエフェクターらしく、自分だけ使わないのもなんとなく据わりが悪いもの。
なのでとりあえずこういう記事を見つつフンワリ設定し、半ばおまじないに近い気持ちでオンにして、後は見ないフリを決め込むというのがお決まりのパターンです。少なくとも過去の僕がそうです。
でも皆楽しそうにコンプの話をしているし、自分も効果の違いを判別できるようになりたい。
そこで「地道に耳を鍛えていつの日か分かるようになろう」なんて結論を受け入れられるのなら、Google検索はいりません。理想を追えばモチベーションが犠牲になるのです。
結論から言いましょう。耳で聴くのが分かりづらいのであればもう、目で見てしまえば良いのです。
決してヤケクソでもなんでもなく、Boz Digital Labsからリリースされている「Manic Compressor」がまさしく、そういったコンセプトで生み出されたプラグインなのです。
DTMを始めたばかりであればあるほど早く導入すべきコンプレッサー。その詳細についてお話したいと思います。
ちなみに「てかコンプって何?」という方は、こちらの記事を先に読んでおくと理解の助けになるかと思います。
目次
コンプレッサーの効果が波形で確認できる
カワイイは、作れる。以来の衝撃です。
これがManic Compressorの一番のキモと言える機能で、なんと入力された音の波形に加え、設定したコンプの効果と圧縮量が視覚的に表示されるようになっているのです。
色んな方向から「ずりー!」という声が聞こえてくるようです。正直僕も、もう数年早く知っていれば……と思ってしまいます。
画面上段のツマミ類で設定した効果がリアルタイムで表示に反映されるため、たとえ耳では違いがよく分からないとしても、波形を見ながら自分のイメージ通りに潰すことが可能になってしまいます。
もう「掛かっているはずだけど、音の変化はわからない」というシュレディンガーのコンプ的状況に悩まされることもありません。一目瞭然とはまさにこのことです。
さらにコンプに慣れていない初心者の場合、アタックやリリースといった各ツマミを動かすと圧縮にどういう影響があるのか?を視覚的に理解できるため、コンプの仕組みそのものに対する理解を深めやすいというメリットもあります。
実際にこの記事ではManic Compressorを使ってツマミの説明をしていますが、僕の文章だけでは伝わりにくい部分をだいぶ補完してくれています。嬉しいような悲しいような複雑な気持ちです。
コンプに欲しい、ありとあらゆる機能が全て付いている
とはいえ波形表示だけならFabFilter Pro-C2など、他のプラグインでも実装しているモデルはあります。
初心者にとってManic Compressorがマストバイである理由は、波形表示だけではないのです。
このプラグインに備わっている2つ目のユニークポイント。それは、コンプレッサーというエフェクターに必要な機能がほぼ全て網羅されているという点にあります。
実装されている機能はざっと以下の通り。
- A/B比較
- サイドチェイン
- Dry/Wet
- Mid/Side切り替え
- 自動メイクアップ
- モノ/ステレオ切り替え
- パラレルコンプレッション
まさに「コンプレッサーよくばりセット」。コレ1台を使いこなせれば、大抵のコンプに関する話題についていくことが可能です。
さらに上記に加え、Manic Compressor独自の機能も搭載されています。
EQセクション
「Dry/Wet」と「サイドチェインで送られてきた音」のそれぞれに3バンドのEQを掛けることが出来ます。
Dry/Wet用EQにはプリ/ポスト切り替えと対象切り替え(Dryのみ、Wetのみ、両方)が付いているので、
- コンプの手前で、入力する音の大きすぎる低音を切る
- コンプを掛けた後、Wetの高音を足してDryと混ぜて調整する
みたいな細かい追い込みが、他にトラックを作らなくてもManic Compressor1台で可能なのがすこぶる楽です。
一方、サイドチェイン用EQは「送られてきた音に対してどれだけコンプを反応させるか」を調整するためのもの。
ブーストした周波数に対してより強くコンプが反応し、カットした周波数に対しては反応が鈍くなります。
個人的にはダッキングの際に余計なノイズに反応しないように高音を下げる使い方をよくします。
Loud Relief
一言で言うと「コンプ感を減らす」ツマミです。
しかし単純にDry/Wetで混ぜ具合を調整した時と比べ、アタックやリリースの特性をより保持してくれます。
ナチュラルな圧縮としっかりしたキャラクターの付与を両立してくれるので、音楽的な仕上がりになるのが特徴です。
オススメはレシオを最大(100:1)にしてバッツバツに圧縮してからLoud Reliefでちょうどいい塩梅まで軽くしていき、最後にスレッショルドで微調整する方法。
特にドラムに対して適用してやると、絶妙なコンプのバランスを演出できて気を失いそうになります。
Beef
入力された音に対するコンプの挙動を選択できるスイッチです。
NEUTRALを基準に、THICKにすればハイがより強く圧縮され、THINにすると密度が上がったような音になります。
マニュアルによると、THICKはボーカルの歯擦音(サ行、ザ行のノイズ)を軽減する用途に向いていて、THINは「コンプが少し硬くなる」とのこと。THINの方の意味がいまいちよく分からないのですが、変な意味でないことを祈るばかりです。
個人的にはNEUTRALから動かすことはほとんどありません。
音のキャラクターを切り変えられる
Manic Compressor最後のウリがこれです。
コレ1台で、実に6つのコンプキャラクターを使い分けることができるのです。特徴が多すぎてちょっと疲れてきました。
それぞれの音の特徴と音源のサンプルは以下の通り。サンプルのセッティングは全て同じにしてあります。
Clean
その名の通り、最も色付けの少ないモデルです。
コンプ本来の”レベルを揃える”という目的に最も良くハマります。
個人的にも1番使用頻度が高いです。
SHEER
光学式コンプのモデリングなので、アタックが遅いのが特徴です。
比較的ナチュラルな掛かり方をするため、ある程度深めにかけてもイイ感じになります。
GRITTY
リリースが短めで、パンチのある音になります。
ドラムにかけてくれと言わんばかりの小気味良いサウンドです。
DIGITAL
どんな音もパッツパツに仕上げてきます。
パラレルコンプレッション用といった趣き。Dry/Wet調整が必須です。
VINTAGE
ヴィンテージコンプのモデルだそうですが、何のモデリングなのかは謎です。
真空管っぽいハイのシャリシャリ加減や、空間を演出するリリースの残り方が結構好きです。(小並感)
SMOOTH
かなりタイトなコンプレッションです。
とても滑らかなリリースが、現代的なロックなんかに合いそうな印象を受けます。
聴いて頂くと分かるかと思いますが、これだけ載っていても全てちゃんと使える音なのがスゴいところです。
何かとコスパが叫ばれやすい現代でも申し分ない実力を持っていると感じます。
総評:初心者であるほど費用対効果が高い
個人的には、これほど「初心者ほど早めに導入した方がいいコンプ」も珍しいと思います。
Manic Compressorがあるだけで
- コンプの効果が視覚という切り口からも理解できる
- コンプのキャラクターの違いが体感できる
- サイドチェイン、パラレルコンプなどの応用技もカバーできる
と、およそコンプに関わる学習体験のほとんどが一度に済んでしまうのです。
DTMer1年目の時にコレがあるのとないのでは、冗談ではなくその後の差に大きな開きが出てくるでしょう。
また、負荷がビビるほど軽くほとんどないレベルだったり、値段が150ドル程度なのも嬉しいところ。
特に値段ですが、他の波形も表示できず1つのキャラクターしか持たないコンプが何万もすることを考えると、だいぶお手頃に感じます。まぁ逆に音しかメリットなくてもその値段が付くコンプの方もスゴいのですが。
すっかりベタ褒めしてしまったのでなんとなく気まずいような気もしますが、何年も使っている現在に至ってなお、不満点はほぼありません。
強いて言うなら潰した”後”の波形は見れないので、見たい場合はもう1つ後ろにManic Compressorを挿す必要があるということくらいでしょうか。
コンプは最初こそ苦手になりやすいですが、一度仲良くなるとその魅力に抗えなくなるヤバい代物です。なんとなく”幸せな死”という言葉が脳裏に浮かびます。
コンプがミックスに及ぼす影響が絶大なのは言うまでもありません。Manic Compressorをきっかけに理解を深め、是非僕と一緒に沼に沈んでいきましょう。