カッコいいコード進行が思いついたけど乗せるメロディがしっくりこない
↓ ↑
良いメロディが浮かんだけどそこに当てるコード進行が思いつかない
「作曲」とはこの2つの間を永久にさまよう状況のことを差す言葉ですが、しかしそれが行き過ぎると最悪の場合、自分の才能の無さを嘆いてDTMから足を洗うみたいな結末を迎えてしまいかねないのが難儀するところです。
そんな現実を否定するべく、平成末期に彗星のごとく現れたコードアシスタントプラグインがありました。その名を「Scaler」。
入力したメロディに合うコード(またはその逆)を即座に提案してくれるという画期的な機能を持っていたことで、初心者からマンネリに悩む上級者まで幅広く受け入れられ、瞬く間にDTM界のSiriと呼ばれる今日の地位に至ったのです。
そして先日、何の前触れもなく突然「Scaler 2」がリリース。戸惑いながら紹介ページを見ていたら何故かアップデートが完了していたので、初代からの変更点や所感などをレビューしてみようと思います。
既に数日触っていますが、バージョンアップではなく別製品としてリリースしただけあって、かなり大きな変更が施されている箇所もあります。なので初代を持っている人も是非参考に的なアレです。
目次
Plugin boutique「Scaler 2」とは
プラグインショップで有名なPlugin boutiqueが自社開発しているコードアシスタントプラグイン、「Scaler」の第2世代です。一息で言うと死にそう。
初代の記事でも書きましたが、このプラグインの真価はやはり、適当に弾いたメロディやコードが「音楽理論上何の音なのか」を示してくれることに尽きるでしょう。
メロディやコードを入力すると構成音から属するスケールの候補を複数表示してくれ、使える音やコードが絞られて曲の展開が考えやすくなるのです。
これは本来、泣きながら音楽理論を学んだ末にやっと感覚的に行えるようになるフローに他なりません。それを誰でもすぐ再現できるツールにしてしまうあたり、外国企業らしい空気読まない感じがよく出ていますね。
特徴的な機能、使い方
入力したコード、メロディを解析できる
Scaler 2は大別して、3つに分かれたセクションを上から順に使っていくような造りになっています。
- 画面上部で解析したいコードやメロディを入力
- 画面中程に使えそうだと判断されたスケール一覧が表示されるので、選ぶ
- 画面下部に使いたいコードをストックすると、オリジナルの進行が作れる
みたいな流れが基本となるでしょう。
中でもスケールについては、
- 入力した音がいくつ含まれているか
- スケールが表す感情
- ダイアトニックコード
- モード
といった情報が併記されている親切設計で、これを参考にイメージに沿ったスケールを選択し、進行やメロディを考える形になります。
もしコード進行を作っているならダイアトニックコードが示されているので、使いたいコードを画面下の空いてるとこにドラッグ&ドロップすればオリジナルの進行をストックできます。
完成したコード進行はテンプレとしてScaler 2内に保存したり、直接DAWに貼り付けたりと自由な取り扱いが可能です。
コード進行が大量に収録されている
「そもそもコード進行が作れないんだけど(半ギレ)」という状況を想定してか、Scaler 2には大量のコード進行がプリセットとして収録されており、それを叩き台として利用することができるようになっています。
音楽ジャンルやアーティスト名で分類されていて、選択するとコード進行例が表示されます。これを差し替えて自分のイメージに近づけるなり、使われているコードを参考にしてジャンルへの理解を深めるなりしてあげると良いでしょう。
ちなみに「J-K POP」という項目もあるのですが、表示されるコード進行が「日本ノ音楽ッテコンナ感ジデショ(笑)」と言わんばかりの雑な捉え方をしていてちょっと面白かったです。
優れた視認性
Scaler 2は、画面上部の鍵盤で
- 今鳴っている音
- 構成音、コード名
- 選択しているスケールの音
がリアルタイムで反映されるようになっており、出音を視覚で理解できるのが使いやすさに大きく貢献しています。
これは特にコードとスケールの関係性を理解するのに有用で、例えば憧れのあの曲のメロディがコードに対してどんなスケールで絡んでいるのか?といった分析が、文字通り一目瞭然なのです。
「このスケールの4番目の音がコードに対して9thで鳴っているので~」なんて文字で見ても心が死ぬだけですが、鍵盤が光っていれば野生の部分で理解できます。そりゃ知識も深まっていくことでしょう。
あと個人的に重宝しているのが、ギターフレットに表示を切り替える機能。
言わずもがな、ギターのソロやアレンジを考える際に鬼頼りになるのです。
変則チューニングにも対応しており、フュージョンおじさんからメタル小僧まで幅広いニーズを受け止めてくれるのもポイントです。それどころかバンジョーとかウクレレまであってちょっと怖いくらい。
奏法が細かく指定できる
Scaler 2上でコードを鳴らす際、以下のように鳴らし方(奏法)を指定できる機能があります。
- エクスプレッション
- アルペジオ
- ストラム
「アルペジオ」はコードをバラして1音ずつ鳴らす奏法で、ピアノやギターでの伴奏から、シンセを使ったシーケンス(繰り返し)フレーズまで幅広く用いられます。
「ストラム」はギターの弦をジャラッと鳴らしている感じを再現するために、コードの入りを若干ズラす奏法。
そして「エクスプレッション」は上記2つに比べて変わり種で、予めパターンとして収録されている演奏を自動で適用するというモードです。実際にかけたものを聴いてみましょう。
僕はScaler 2上でコードを長押ししているだけで、このやたら不安を煽るようなフレーズは勝手に生成されています。
要は「初心者でも複雑なフレーズが簡単に作れるよ!しかもフレーズ集と違ってコードは自由!」という事のようで、他にもメロディだけ生成したり、コードではなくスケールをベースに演奏するようにも設定可能。
同じコード進行でも奏法1つで印象がガラリと変わるものなので、つい手癖で弾いてしまういつもの進行のマンネリ打破にも活躍するでしょう。
強めの入力支援機能
コードやメロディの作成だけに留まらず、それらをDAW上で打ち込む時の支援機能があることにも触れておくべきでしょう。主なものは以下の3つ。
- KEYS-LOCK
- VOICE GROUPING
- HUMANAIZE
「KEYS-LOCK」は主にMIDIキーボードがある環境で使う機能で、選択したスケールの構成音以外のキーを鳴らなくする、というもの。
↑はCマイナースケールを選択し、Aを押しているところです。Aはスケール外の音なのでミュートされ、自動ですぐ下のA♭に置換されているのが分かります。
つまり「絶対にスケール音で演奏できるマン」になれるボタンというわけで、特にソロを作る時などに出番となるでしょう。
ちなみに個人的におすすめなのは「構成音を全て白鍵に割り当てる」というモード。
どんな難解なスケールもドレミファソラシドで弾けるので、あたかも自分が名プレーヤーになったかのような気分を手軽に味わえます。
2つ目の「VOICE GROUPING」は、ルートが遠いコード間の移動で違和感が出ないよう音を積み直すという機能です。
Cm → B♭という進行を2回ずつ弾いていますが、後半の方がより近いボイシングになっているのが分かるかと思います。
打ち込みをしていて「なんかコードの”移動してる感”が露骨だなぁ」と思った時なんかはまさに使い時です。
そして最後の「HUMANAIZE」はそのままヒューマナイズ。強弱やタイミング、またはその両方を僅かにばらけさせることで”人間が演奏してる感”を加えてくれるというアレです。
左が適用前、右が適用後。微妙にタイミングとベロシティが揺れています。
手動で調整する手間をかけずに機械みをある程度減らせる上、とりあえずおまじないとして常にかけとくみたいな雑な使い方をしても効果があるのが嬉しいところ。
初代Scalerとの主な違い
オーディオファイルの読み込みに対応した
初代でもMIDIの読み込みはできたのですが、Scaler 2ではオーディオファイルも検出の対象とすることができるようになりました。
実際に、以下のMIDI(ピアノ)をそのまま入力した時とオーディオに変換して入れた時の結果を比較してみましょう。
MIDIのまま入力した時の分析結果
オーディオに変換して入力した時の分析結果
凄まじく直視しづらい結果となりましたが、オーディオに変換すると倍音の関係か、かなりザックリとした検出精度になってしまいました。なまじMIDIの方が完璧に検出できている分、気まずさが際立ちます。
勿論あくまで僕の環境ではこうなったというだけで、他の条件下ではこの限りではないのかもしれません。
公式の動画↓ではちゃんと動作しているように見えるので、単に僕の使い方や設定が悪いだけである可能性が全然あることにご留意ください。
「転調」がサポートされた
Scaler 2へのアップデートにおいて、ここが最大の変化だと言えるでしょう。
「MODULATION」と呼ばれるセクションが追加され、転調を加味したコード進行を検討できるようになったのです。場面に応じて4つのモードを切り替えつつ使用します。
- PROGRESSION
- SECONDARY SCALE
- MODAL INTERCHANGE
- MIDIANT
最初の「PROGRESSION」では転調元と転調先のスケールを指定することで、
- 転調時に経由するコード進行例の提案
- 転調後のコード進行の試聴
が可能になります。
画面左には五度圏が配置され、ルートの位置関係を確認しつつ転調先のスケールを吟味できるような設計です。
目を引くのは「転調時に経由するコード進行案」ですが、あくまで一例を示しているに過ぎないため、そのままでは自然さを欠く場合が多いように思います。参考材料程度に捉えておくのが無難でしょう。
2番目、「SECONDARY SCALE」はスケールをベースに転調を提案するモード。
- 転調時に経由するコード進行例の提案
- 転調先のダイアトニックコード毎にセカンダリーのⅡ-Ⅴを示してくれる
という機能を持つセクションです。
転調時に経由する進行の候補案に加え、各ダイアトニックコード毎にセカンダリーのⅡ-Ⅴを選択肢の1つとして示してくれます。転調後に進みたいコードが決まっている場合、都度調べる手間を省けて便利でしょ(威圧)ということのようです。
3つ目の「MODAL INTERCHANGE」はそのまま、イドフリミエロのダイアトニックを表示してくれるというもの。
一時的な転調という意味で、主に借用和音を探す際に参照するのが一般的な使い方になるかと思います。この辺はだいぶ音楽理論の知識が求められてきますね。
最後、「MIDIANT」は任意のダイアトニックコードを起点として作られるミディアントコードを表示してくれるというセクション。
僕はこれで初めてミディアントコードという存在そのものを知りましたが、雑に言うと「3度上や3度下のコードに進行すると意外な響きが作れる」という海外の手法なんだそうです。
実際に作成した進行↓
主として映画音楽などで使われているらしく、聴いてみるとまぁ確かにそんな感じがしないでもないような、何ともコメントに困る感じがします。いつもの代わり映えしないコード進行に破壊衝動が湧いたら、ココにぶつけてみると良いかもしれません。
使用上の注意点
多機能ゆえの功罪
Scaler 2になってできることが増え、多機能に拍車がかかったのは良いことなのですが、触れる箇所が多岐に渡り過ぎているように思うこともあります。
例えば1つコードを入力するのにも
- MIDIキーボードで入力するか、手打ちするか
- 鳴らすオクターブはどこにするか
- テンションを付与するか、するなら何度を足すか
- ボイシングはどうするか
- 奏法や演奏パターンを指定するか
と自由度がハンパではなく、イジりたい人にとっては至れり尽くせりですが、気軽に使いたい人からすると取っつきにくい印象を与えかねないように思います。
実際は自分に必要な機能だけ覚えて使えればそれで全く問題ないので、特にこういったツールに慣れていない自覚がある場合、無理に全ての機能を理解しようとしない方が良いでしょう。
使いこなすなら音楽理論の知識が必要
Scaler 2のポテンシャルを100%発揮したい場合、音楽理論の知識がある程度必要になるのは間違いありません。
上で書いた転調のくだりなど、分からない人にとっては日本語と認識されているかも怪しいものです。全ての機能を使いこなすには、少なくとも
- キー、スケール、コードの関係
- モードについて
- ダイアトニックコード、テンションノートなどの用語
この辺の知識が必要になってきます。
もちろん「思いついたコード進行やメロディの続きを考える」くらいならそこまで深い知識は必要ありませんが、コードって何?くらいの初心者には間違ってもおすすめとは言えないのも事実です。
1億総DTMer社会の訪れ
プラグインや音源、果てはDAWまで無料で手に入るようになり、日経平均よろしく敷居が下がり続けているDTM。
そんな現代であってもなお、人類がコード進行を克服するのはまだ先と見えて、Scaler 2のようなツールの需要は依然高いままです。僕も依存が進む一方と言えます。
こういうツールの良い所は、人間の手癖や習慣といった固定観念が入り込む余地がない点にあります。入力されたコードに対して使えるスケールを平等に一覧にしてくれるScaler 2なら、特定のスケールばかり偏って使ってしまうような事態をある程度防げるわけです。
しかしどれほどアシスタントが発達しようとも、結局は提示された選択肢の中で何を選んだか?が創作であることに変わりはありません。
技術と創作、その中間を上手い塩梅で使いこなせるようにしていきたいものです。少なくとも、メロディすらツールの方が上手く作ってしまうその日が来るまでは。