時間をかけて完成した曲であればあるほど、一人でも多くの人に聴いてもらいたいと考えるのはDTMerとして当然の感情です。
アレンジ、音作り、歌詞の世界。聴いて欲しいところはいくらでもあり、それを余すことなく届けるため、ミックスにも全力を尽くしたはず。
しかしその完璧と思われたミックスバランスも、実は「自分の再生環境に限って」の話に過ぎないことが見逃されがちです。曲を聴く見知らぬ誰かは、自分とは全く違う部屋とスピーカーで聴いているはずなのですから。
その差から生まれるミックスの違和感が原因で、アレンジなどの曲の要素に入る前に離脱されてしまう。こんなに悲しいことはないでしょう。その悲しみでまた一曲書けてしまいそうです。
そんな負の連鎖に終止符を打つため世に出されたのが、Sonarworks Reference4というソフトなのです。
Reference4は、いわゆる一つのキャリブレーションソフト(”キャリブレーション”の詳細は↓)。
あなたの持つスピーカーやヘッドフォンの出音を測定し、常にスタジオのようなフラットな状態に補正してくれるやべー奴。しかも個人が手を出せる価格で、です。
目次
実際の効果
何よりもまず、その実力のほどが重要です。実際の効果を聴いてみましょう。
補正によって出過ぎていた中低域が抑えられ、全体がスッキリ聴こえるようになっているのが分かります。特に低音が見えやすくなり、キックとベースの干渉具合なんかをさらに詰めることができます。
その効果は画像で確認しても一目瞭然です。
補正前

補正後

田舎のヤンキーでもここまで丸くはならないでしょう。とはいえ、この適用後の波形はあくまで目標値なので実際はもう少し揺らぎがあるはずです。
しかしその効果と言えば一回補正後の音を聴いてしまったが最後、二度と補正前のリスニング環境には戻れないほど強力なものです。これは決して大袈裟な表現ではなく、実際に僕は導入してからの1年半、ずっと適用しっ放しです。
これ↓はPCがクラッシュしてReference4無しの生活を送っていた時の悲痛なツイート。その依存ぶりが窺えます。
Reference4無しのウチのスピーカー、低音が3倍
— 1176@DTMブログ (@1176fire) February 3, 2019
そしてこのReference4、ガチプロも使用しています。
GENELECはGLMで補正して使っています。かなり効果ありますね。
Sonarworksも使いましたがかなり細かく補正してくれますね
音響調整されていない部屋程、効果は大きいと思いますよ#peing #質問箱 https://t.co/HK6cQos2NQ pic.twitter.com/hHEnZJOUdj— うがい手洗い鈴木Daichi秀行 (@daichi307) March 13, 2018
Sonarworks Reference4の特徴
には、かなり独特かつ強い機能があります。
Systemwide
に限らず、キャリブレーションソフトの多くはDAWのマスタートラックにプラグインとして挿して使うのが普通です。

しかしDAWで補正された音を聴いている最中、ふと休憩でYouTubeとかを開くと補正されていない状態の音が入ってくるため、半端ない違和感を覚えます。
そうなると「どうせなら米津玄師も補正した状態で聴きたい!」というのが人情というもの。そこで登場するのがこの「Systemwide」なのです。
Systemwideは独立したアプリケーションで、PC上の全ての音に対して補正をかけてくれるため、YouTubeだろうとiTunesだろうと問答無用でフラットなリスニングが可能になります。

じゃあDAWに挿す方いらなくね?と思いますが、Systemwideは若干のレイテンシー(遅延)があるため、MIDI鍵盤などでリアルタイム録音するような用途には向かないのです。その場合に、レイテンシーをゼロにできるプラグインの方を使用するわけです。
ちなみにプラグインを立ち上げると、Systemwideは自動でオフになって二重掛けを防いでくれます。さすがプロにもモテるソフトは違いますね。
Headphone
大抵のキャリブレーションソフトはスピーカーの調整しかできないのですが、Reference4はヘッドフォンも補正することができます。

スピーカーと違ってマイクで計測(後述)できないヘッドフォンは、あらかじめ機種ごとに用意されたデータを読み込んで補正します。
従って、補正できるヘッドフォンはデータが提供されている対応機種のみになりますので、導入する場合は必ず所持しているヘッドフォンが対応しているか先に確認しましょう。
対応機種の確認はこちらのページから。
画像で見るとよく分かりますが、いくらフラットを謳っているヘッドフォンでも出音にはかなり波があります。
ド定番のMDR-CD900STでもこの通り。

補正後はスピーカー同様、全然違う出音になります。特にヘッドフォンの弱点である低音の確認がしやすくなるので、スピーカーが置けないDTMerには本当にお勧めです。
測定手順は簡単
リスニング環境の測定は、
- スピーカーから測定用のテスト音声が流れる
- それをマイクで拾う
- 画面に表示されるポイントに移動して測定、を繰り返す
この流れで行います。↓の動画で一連の作業が確認できます。
動画ではマイクを手持ちしていますが、僕は一応、マイクスタンドにセットして計測のズレを最小限に抑えようとしました。効果があったかは正直謎です。
また微調整レベルですが、測定した結果は自分の好みに合わせてイジることができます。
Dry/Wet(補正前/補正後)の調整
高音、低音の微調整
注意すべき点
測定用マイクはコンデンサータイプなので、ファンタム電源が必要
ソフトと一緒に測定用マイクを購入する場合(後述)、自分が使っているオーディオインタフェースにファンタム電源が付いているか確認しましょう。
コンデンサータイプのマイクは動作に電源を必要とするため、このファンタム電源機能が搭載されていないインターフェースに繋いでも音が拾えないのです。そしてReference4のマイクはコンデンサーです。
インターフェースに「48v」と書いてある挿し口があったら対応していると思って大丈夫ですが、インターフェース名でググっておくのが確実です。
あと地味にマイクケーブルも付属していないので自分で用意する必要があります。持っていなければ一緒に買っておきましょう。
測定は昼間にするべき
測定時には破裂音や人の話し声など様々なテスト音声が流れますが、音量が小さいとマイク側で十分に拾えず、上手く測定できません。
結果として結構な音量でスピーカーを鳴らす必要があるため、夜間の測定はお勧めしません。DTMにおいて一番大事なのはモニターチューニングではなく隣人関係なのです。
マイク側の入力ゲインを上げるのも手ですが、あんまり上げると「ノイズがデカくて測定できないよ!!」みたいな表示が出て怒られます。
ミックスの書き出し時にはプラグインをオフにする
DAWのマスターにプラグインを挿している場合、曲を書き出す際にはオフにする必要があります。
あくまでリスニング用に入れている補正を曲に上書きしてしまい、ミックスバランスが崩れてしまうのを防ぐ為ですが、これをまぁよく外し忘れます。10回に12回くらい忘れます。
書き出したオーディオデータが変に小さい音だな、と感じたらやらかしているので、再度書き出さなくてはなりません。Systemwideにレイテンシーがなければ全て丸く収まるのですが。
販売形態(エディション)の種類
を購入する際は、次の5つのエディションから選択することになります。
製品名 | Headphone プラグイン |
Speaker プラグイン |
Systemwide | 測定マイク | ゼンハイザー HD650 |
Reference 4 Headphone Edition | ◯ | ◯ | |||
Reference 4 Studio Edition | ◯ | ◯ | ◯ | ||
Reference 4 Studio Edition with Mic | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | |
Measurement Microphone | ◯ | ||||
Reference 4 Premium Bundle | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
状況別に分けるなら、以下のようになります。
ヘッドフォンだけ補正したい
スピーカー・ヘッドフォンを補正したい
スピーカー・ヘッドフォン補正と、モニターヘッドフォンが欲しい
※国内販売なし
スピーカーを補正したいがマイクはいらない
マイクだけ欲しい
スピーカー補正が目的の場合、専用マイクを買うかどうか?が一つの判断基準になってきます。
公式では一応「純正のマイクで無くとも1万円前後のマイクがあれば測定はできる」としていますが、純正のマイクは個体差を補正するためのプロファイルデータが付属するため、測定の結果に不安を持ちたくないのであればマイクも購入した方がいいと思います。
僕はベタにスピーカー補正とマイクのセットにしました。
ちなみにPremium Bundleに付属しているHD650にも専用の補正プロファイルが付属してきます。
この際だし良いモニターヘッドフォンもついでに欲しい、という貴族層の方には良い選択肢でしょう。
結論
買い方こそ悩むところではありますが、晴れて導入を果たしたならそこには見違えるような環境が待っていることでしょう。また一つ、技術を金で買ってしまったことを実感するはずです。
リスニング環境を改善することでしか得られない成長は確かに存在します。どれほど高価なプラグインや機材を導入しようとも、最終的には出音が全てを決めるのですから。