家事、運転、退職。
現代の三大「代行」と言えばこの3つですが、実は少し前に、音楽業界にも新たな代行サービスが誕生したのをご存知でしょうか。
その名は「Super dolphin」。えー賢いイルカのサービスなんて可愛いー↑と思いきや、その実態はプロの音楽家による編曲代行サービスだというのです。
編曲とはザックリ言うと「鼻歌や弾き語りに色んな楽器を足したりして1つの曲に仕上げる作業」の事で、ここの出来次第で曲全体の完成度が恐ろしいほど変わるため、楽曲制作において重要度が非常に高いことで知られています。
しかし0→1を”生み出す”作曲と比べ、1→100に”膨らませる”編曲にはあらゆる楽器や音楽理論の知識が求められることが多く、自分でやってもクオリティに満足できなかったり、そもそも手が出せない音楽家が多いのも実情だったりするのです。
そこへ、
- 第一線のプロ編曲家に
- 安価かつ定価で
- 権利を完全譲渡の上
- 個人でも依頼できて
- 完成後のキャンセルも可能
という冗談みたいな形を整えて殴り込んできたのがこのSuper dolphinであり、「メロディや簡単な曲は作れるけど、プロと比べて仕上がりがショボい」という一文にドキッとした貴方は、知っておくと幸せになれるかもしれません。
そして謎の縁により今回、元締め運営元の代表にインタビューすることにも成功した↓ので、依頼側と運営側、両方の視点からこのサービスを紐解いていきたいと思います。
目次
「Super dolphin」とは
一言で表すなら「プロによる編曲代行サービス」となります。
実を言うと、音楽業界には編曲を専門に請け負う「編曲家」が多数おり、そういった人に編曲を依頼するという行為自体はごく一般的なことだったりします。それはプロの世界に限った話ではなく、アマチュアでもココナラなどで普通に頼むことが可能です。
ならば、Super dolphinは既にあるサービス群の後追いに過ぎないのか。勿論そうではなく、これまで不可能だったことを可能にしたからこそ、各方面から熱い視線を集めているわけです。
それが上で出てきた、
- 第一線のプロが編曲
- 安価かつ定価
- 権利を完全譲渡
- 個人でも依頼できる
- 完成後のキャンセルも可能
の5点。
第一線のプロに編曲してもらえる
サービスの価格や対応がどんなに優れていても、実際に編曲するのは賢いゾウです!というのでは不安が残りますが、Super dolphinでは第一線のプロがアレンジを担当してくれます。
ここで言うプロとは、素人が考える「有名人の曲を手掛けている人」とかそういうレベルの”ガチのプロ”で、その実力は公式ページの実例集でも耳にすることができます。
とはいえ、「プロです」の一言で片付けられては恐らく人間である、以上の情報が得られないのも事実。そこについては少し特殊な事情があるため、後述のこちらを参照してください。
安価かつ定価
普通ガチプロに依頼するとなれば、まず数万円では利かないギャラを用意する必要があります。しかも具体的な額は編曲家や依頼する内容によって変動し、それこそ中古車から高級車まで、例える対象は広くならざるを得ません。
そんな中、Super dolphinの依頼料は何と「88,000円(税込)」で、しかも定価。つまり「どんな依頼だろうとコレより上がりも下がりもしない」と明確に打ち出してしまったのです。携帯会社よろしく、小さい※が無限に付いてくるなんてこともありません。
「編曲」という価値を数値化しづらい商品に一律料金を定め、しかもそれが相場よりかなり安い設定だったことで、Twitterの音楽界隈は一時騒然となりました。
無論、個人としての88,000円は決して安くない額ですが、そもそも「プロの編曲」というサービスを個人が手を出せる価格帯に持ってきていること自体が凄いので、やはり安いと形容する他ないでしょう。
権利を完全に譲渡して貰える
編曲家との打ち合わせが大いに盛り上がり、その熱量のまま素晴らしい曲が完成。本当にありがとうございましたという段階で「では曲の権利は半々で」と切り出され、昨日の友が今日の敵に……。
こうした「曲の権利問題」が個人間のやり取りでは往々にして起こるものですが、Super dolphinの場合、楽曲に関するほぼ全ての権利は依頼者に譲渡すると明確に定められています。口約束ではなく、正式な契約書が用意されるのもポイント。
ライブ演奏や音源販売、ネット配信や権利の信託など、およそ曲が完成したらやるであろうことは一通りできるという認識で問題ありません。唯一、完成後に貰えるパラデータ(各楽器単体の録音データ)を流用したり販売することのみ禁じられています。
ちなみに「ほぼ」譲渡となっているのは法律上どうしても放棄できない権利(著作者人格権)が存在するからで、それは他の編曲家でも同様かつ、依頼者の活動を阻害するものではありません。
個人でも依頼できる
あと自然に流されてしまっていますが、そもそも通常、ガチプロに何のコネもない個人が依頼をすること自体が至難の業なのです。よしんば連絡が取れたとして、88,000円で受けてもらうには何かしら相手の弱みを握る必要があるでしょう。
そこにSuper dolphinという仕組みが入ることで一個人でもプロに、しかもあくまで平和的に依頼を行えるようになったわけですから、ここは明確に今までにない付加価値であると言えます。
完成した後でもキャンセルが可能
そして最後のダメ押しが、「完成後のキャンセルも可能だよー」という意味不明な施策。
一般的な編曲家の場合、全ての作業が終了した後で一方的にキャンセルを申し出たとしたら、
- そもそもキャンセル不可=全額の支払い義務
- 当初の契約金の何割か(少なくとも50%以上)の支払い
このどちらかになるケースがほとんどです。たとえどんなに納得できない仕上がりだったとしても、時間と手間が既にかかってしまっている以上、「やっぱ無しで」が通らないのは道理と言えます。
しかしことSuper dolphinに限っては、手数料3,300円のみでキャンセルを認めているのです。負担率は実に3.75%に過ぎず、依頼者側の「どんなに綿密な打ち合わせをしても実際の成果物がどうなるかは分からない不安」という永遠の命題に、1つの答えを提示してしまった感があります。
何故こんなことが可能なのか?
と、ここまで行くと依頼者側に都合が良すぎて逆に不安になってくるのが人情ですが、そのいっそ怪しいまでのメリットが実現する謎のタネは、以下のような「編曲家側のメリットも大きい」仕組みにあるのです。
匿名かつ複数人のチーム制である
上でSuper dolphinはサービスであると書きましたが、正確には
- 「複数の編曲家によるチーム」であり、
- そこに在籍するメンバーの名前は一切非公開
となっています。
こういう形を取ることで、編曲家にとっては
編曲家側のメリット①
- チーム単位で依頼を受けるので、自分の得意なジャンルだけ受けられる
- 複数人体制なので、空き時間ができた時だけ受けられる
- 名前が出ないので、自身のブランドイメージを崩さずに依頼を受けられる
といったメリットが享受できるようになっているのです。
③については少し想像が難しいですが、ある程度業界で有名になると「あんな安い価格で、無名のアーティストを受けてるのか」と思われることがブランドイメージに影響を及ぼす場合があるそうで、そこを回避しつつ、スキマ時間に仕事を受けられるのが魅力的に映るようです。
それに加え、チームと依頼者の間に運営元のワールドスケープ社が調整役として入ることで、
編曲家側のメリット②
- 編曲に関する要望、修正のヒアリング
- 曲の権利の明確化
- 報酬のやり取り
こういった事務的な作業を全て丸投げでき、編曲だけに集中できることもSuper dolphin特有の大きな利点になっています。
これは同時に、依頼者側にとっても
- 打ち合わせ時に話すべきことを自分で考える必要がない
- 音楽用語が分からなくても担当者が言いたいことを汲み取ってくれ、上手く編曲家に伝えてくれる
- 面と向かっては言いにくい修正点も伝えやすい
- 権利、報酬の面で揉める心配がない
のようなメリットに繋がっており、こうして両者に利のある形になっているからこそ、サービスとして成り立っているわけです。
「匿名の実力」を受け入れるからこその値段
しかし編曲家が匿名であるからこそのサービスとはいえ、依頼者側からすれば自分の曲を編曲してくれるのが誰なのか分からず、もっと言えば「本当にプロなのかも分からない」と思うのが本音でしょう。
その問いに対しては、↓のツイートが1つの回答になると思います。
これはサービスのリリース当初に行われた、Super dolphinへ参加したい編曲家を募るツイートで、注目すべきはその応募数。実に200名弱もの応募があったことが分かります。
もちろん応募したら誰でも参加できるわけではなく、そこにはサービスで謳っている「第一線」の実力が求められます。要は審査があり、それを通過した一部だけが参加を認められる形なのです。
つまり素性こそ明かせないものの、その実力はワールドスケープ社によって保障されていて、それを公式の実績例や世に出ている「編曲:Super dolphin」の曲を聴いて判断し、納得できたら依頼するというのがこのサービス唯一の条件と言えるでしょう。
結論としては「本当にプロかどうかの明示はできないので、実例を聴いて判断してね」という話ですが、それはココナラとかでも同じです。どんなにプロフィールに「メジャー実績あり」と書いてあっても具体名を出せなければ、結局はデモソングを聴いて判断するしかないわけです。
そして具体名を出しているプロに正面から依頼した場合、Super dolphinと同じ条件で受けて貰えるかどうかは、先ほどお話ししたとおりです。
完成した音源はワールドスケープ社が買い取る
最後に余談ですが、「完成後キャンセル」実現のカラクリについて。
もしキャンセルが起きた場合でも、完成した音源は仲介のワールドスケープ社が買い取り、編曲家には決められていた報酬が変わらず支払われる形になっているそうです。つまり編曲家にとってはたとえキャンセルになろうと、作業時間が無駄になるリスクは無いということになります。
そしてワールドスケープ社側はその音源に別のメロディを当てて全く別の曲として再利用することで、買取分の元を取るつもりであるとのこと。Audiostockに登録するなりコンペに提出するなりすれば、資産として運用できるという目算のようです。
他サービスとの比較
個人の音楽家が編曲を依頼する場合、最も一般的な手段になるであろう3つを比較したのが↓の表です。
フリーランス | ココナラ | Super dolphin | |
---|---|---|---|
価格 | 要交渉 (数万~数十万) |
要交渉 (数万~) |
一律88,000円 |
交渉の手間 | かかる | かかる | 最小限 |
曲の権利 | 要交渉 | 要交渉 (譲渡が多い) |
ほぼ譲渡 (契約書あり) |
クオリティ | 人による | 人による | 高品質保証 |
キャンセル | 不可 | 不可 | 可能(3,300円) |
ミックス マスタリング |
人による | オプションで可能な 場合が多い |
不可 |
各項目のうち、「特に優れているポイント」を青色にしてあります。
「価格」で言えばココナラが最も安く済むでしょう。安ければSuper dolphinとほぼ同じ条件を揃えても5万円前後で収まるくらいの相場感です。
ただ編曲は複雑なアレンジになるほど値段も上がるのが常なので、値段以上のクオリティ(プロ並み等)を要求するとそもそも受けてもらえなくなる点に注意が必要です。そういった意味でも、「交渉の手間」は専門の担当者が入るSuper dolphinに軍配が上がります。
「曲の権利」は実際のところ、3つとも譲渡になるケースが多いです。ただ個人だと契約書まで用意してくれる編曲家は少なく口約束になりがちで、また完全譲渡の場合は値段を上げる人もいます。権利収入の可能性を放棄する、いわゆる”買い切り”という形になるためです。
「クオリティ」については詰まるところ、”自分で編曲家のレベルを見極められるか”という点で分けることができます。自分で判断できるならフリーランスやココナラを、不安があるなら質を担保しているSuper dolphinを選ぶ、という具合に。
「完成後のキャンセル」は明確にSuper dolphinのみの特徴で、逆に「ミックス・マスタリング」は現状受けていないため、そこまで求めるならその他2つで対応してくれる人を探すことになります。
あとこの表だとフリーランスが良いとこ無しのように見えますが、自力で相性の良い編曲家を見つけることさえできるなら、値段やクオリティで他サービスを凌駕できる可能性があります。
実際それが最大のネックであり、そこで必要な「探す、見極める、対話する」の3つを代行するからこそ、Super dolphinは独自のサービスとして成り立っているのです。
”編曲をする側”の視点から
上の比較は依頼側の視点に立ったものですが、編曲を受ける側の視点から見てもこの3つには違いがあります。そしてそれは回り回って、依頼側にも関係してくるように(個人的には)感じるのです。
まずココナラですが、「かなり高い手数料(22%)が抜かれるので、依頼者が実際に支払った分よりいくらか減った額が編曲家にとっての報酬額である」という事実があります。
手数料が抜かれるのはSuper dolphinも同様ながら、「編曲以外の全ての作業をやらなくていい」という点で大きく異なります。ココナラで受けると交渉などの時間も全て込みの報酬になるため、どうしても「ヒアリングを簡潔に」とか「編曲の作業時間をいかに短くできるか」という考えになってしまうのです。
これは決して手抜きということではなく、仕事としての時間対効果を考えざるを得ないがゆえの結果と言えます。この問題が解決していたから、Super dolphinには200人もの応募が集まったのでしょう。
では中抜きのないフリーランスとしての直仕事が最も良いかと言うと、それはそうなのですが、今度は「コンスタントに仕事が来るわけではない」という問題に直面します。
商売は集客が最も難しく、だからこそココナラ等の人が集まるサービスを通して依頼を受け付けるわけです。依頼する方にしても知らない人に直で頼むのは不安が伴うので、企業のシステムを間に挟むことが双方にとって有益なのは間違いありません。
結果として、「ヒアリングや交渉に時間を割く必要がなく、かつ企業として個人と編曲家を繋げてくれる」Super dolphinのシステムは、編曲家にとってちょうど良いとこ取りをしているのです。全ての例がそうとは言いませんが、編曲家のモチベが高い方が成果物も良くなりやすいでしょう。
使い方(依頼の手順)
「とりあえず話を聞いてみたい」となった時、取るべき行動もごく単純です。
まず公式サイトへ飛び、「無料で編曲相談」をクリック。
ワールドスケープ社が別で運営している「Frekul(フリクル)」のIDが必要になるので、持っていなければ登録しましょう。
ログインすると、依頼の流れが表示されます。「入力を始める」をクリックすると、
依頼者と曲の情報を入力する画面に遷移します。入力したら「次へ」。
編曲してほしい自作曲をアップロードします。この時、
- フルコーラスで作ってあること
- ファイル形式がmp3/wav/m4aのどれかであること
が条件になるので注意しましょう。ただし「メロディはフル尺で出来てるけど、間奏をどうするか相談したい」みたいな状態ならOKらしいので、最低限メロディだけはフルで作っておいてください。
希望する編曲に近い、既存の曲を2曲以上指定します。
ここで挙げた曲が実際の編曲の参考になるため、よく吟味しましょう。注意点としては歌詞やメロディではなく、楽器編成や全体の雰囲気、曲展開が近いものを選ぶことです。
最後にオンライン打合せの日時指定をして終わりです。
受付が終わるとメールが届き、後日、指定した日時にワールドスケープ社の担当者との打ち合わせになります。
実際にどんな流れで行われるのかはインタビューにて伺ったので、心の準備の参考にどうぞ。
プロの技術を買い、盗む
「凄いイルカの代行業」と書くとジブリ映画のようですが、その内容はとても現実的かつ実用的なものであることが少しでも伝わったでしょうか。
こちらの記事は僕個人の見解で構成されているので、それとは反対の、サービスの仕掛人の視点から構成されるインタビュー記事も併せて見てみてください。そこにはただの利益追求だけではない、依頼者と同じミュージシャンとしての熱意が感じ取れるはずです。
またSuper dolphinは編曲代行サービスではあるものの、その使い方は何も新曲のアレンジだけに限りません。DTMer的に例を挙げるなら、自分で編曲までした曲に別のアレンジを施してもらってプロの技術を盗むなどするのも良いでしょう。
特に納品時にはパラデータが貰えるので、トラック毎の音作りや処理といった細部まで観察できる教材が手に入るという点を踏まえれば、ただ編曲に88,000円払うだけのサービスで終わらないことが分かると思います。
他には「曲に自信があるのに何故か評価されない…」と思った時、その原因が作曲と編曲どちらに問題があるのかハッキリさせるために使う、なども利用法の1つ。貴方の音楽的欲望を一度、Super dolphinにぶつけてみるのはどうでしょう。