「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
君は指さす夏の大三角
覚えて空を見る
引用:「君の知らない物語」作詞:ryo(supercell)
情景が目に浮かぶよう、というかそのまま書いてあるのですが、しかしこのストレートさに反して緻密な曲だったからこそ、広く受け入れられる名曲になったのでしょう。加えて並大抵ではないボーカルまで乗って、反応するなという方が酷な話です。
この曲の全てを語ると記事どころか新しい別のブログが生まれてしまうので、今回はコード進行の、それも個人的にエモいと思う部分だけを解説したいと思います。
「好きなことを語るのがブログ」とはよく言われるところですが、イチゴだけ食べてケーキは残すような病的な形になってしまって大変遺憾です。
だからと言って、特別僕に、何かが出来るわけではないのだけれど(cv神谷)
命名「君しらコード」
一発目、イントロの進行。
Ⅰ/Ⅲ Ⅳ Ⅴ Ⅵ
ここでド頭に出てくるⅠ/Ⅲ。コレこそがこの曲の根幹を為すコードだと言える、最エモのコードなのです。
普通の進行にすればこう↓なります。
Ⅰ Ⅳ Ⅴ Ⅵ
綺麗は綺麗ですが、「君知ら」特有のあの空気感は失われたように感じます。
もう一つこの例を挙げてみましょう。
ピアノだけの導入が終わり、他のパートも入ってきて盛り上がっているトコロ。
Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅰ/Ⅲ
ここでは4つ目のコードがⅠ/Ⅲです。
続いて普通の進行。
Ⅳ Ⅴ Ⅵ Ⅰ
最後で完全に夜が明けています。これほど露骨に台無しな例も珍しいです。
曲中で描かれる特別な夜空を表現しているのは間違いなくこのⅠ/Ⅲというコードであり、この後も曲の要所要所で登場してさりげなく星空感を演出していきます。
どんな場面でもこのコードを一発鳴らせば満天の星空に早変わり。ミスして怒られそうな時とかにお勧めです。
合唱っぽいコードで青春の日々へ
Aメロ一回し目に当たる部分。
Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅴ/Ⅶ
Ⅵ Ⅱ Ⅳ Ⅴ
聴いて頂きたいのは4~6番目のⅠ Ⅴ/Ⅶ Ⅶの流れ。
合唱曲っぽくないですか?
普通の進行だとこう↓です。
Ⅰ Ⅴ Ⅳ Ⅰ Ⅴ
Ⅶ Ⅱ Ⅳ Ⅴ
これでもかと無味無臭です。教科書的という意味では青春ぽいと言えなくもないですが。
これは仮説ですが、誰もが義務教育課程で耳にする合唱曲っぽい進行が混ざることで、聴いた者に青春時代を想起させるようになっているのではないでしょうか。
作曲者のryoさんが狙っていたかは不明ですが、結果論としてそういう構造になっているように感じます。
目まぐるしく畳み掛けるサビ
最後は曲の顔、サビにおけるこの進行です。
Ⅰ Ⅴ
Ⅳ Ⅵ Ⅴ/Ⅶ Ⅰ Ⅳm Ⅴsus4 Ⅴ
Ⅰ/Ⅲ
上のコードの4つ目以降、Ⅵ Ⅴ/Ⅶ Ⅰ Ⅳm Ⅴsus4 Ⅴ Ⅰ/Ⅲ の流れで息もつかせぬコードの暴力が展開されます。
最初3つ(Ⅵ Ⅴ/Ⅶ Ⅰ)でエモを叩きこんでからの悲しげなⅣmで油断させ、希望を感じさせるⅤsus4 Ⅴで感情の高まりは最高潮を迎えます。そして着地はしっかり「君知ら」コード(Ⅰ/Ⅲ)。
これが一瞬で脳を通り過ぎていくのですから、聴いている方は何をされたか理解できるはずもありません。気が付いたら「supercellは人生」みたいなツイートをしているのも道理だと言えるでしょう。
なまじイントロ~Aメロ辺りが上手く作れてしまうとサビで困るというのはよくある話ですが、この曲はどこから作ったにせよ、見事な緩急と起承転結です。シェフを呼べ!
まだ誰も知らない物語
こうして書いてみるとただオンコードが好きなだけなような気もしますが、野暮なことをいうのはやめましょう。今僕の心は高校2年生なのです。
ryoさんの技術力はニコニコの伝説だった頃から頭一つ抜けていましたが、こうして改めてつぶさに見てみると、どういう生活を送ったらこうなるのかが本当に不思議でなりません。
しかもこの記事を書いている時点で既に8年前の曲なのです。2020年のオリンピックの年にはさぞ音楽業界を揺るがすことでしょう。
しかしその変化の中でも少しストレートすぎるきらいのある歌詞だけは、なんとなく変わらないでいて欲しいような気がします。