正解のないDTMにおいて唯一、明確な上達法として知られている練習法、「耳コピ」。
己の聴力だけを頼りに既存曲をコピーすることで、
- 音感が鍛えられ
- 打ち込み技術が向上し
- ミックスバランスも取れるようになる
と来れば、いたる所で推奨されているのも頷けます。
ここに「みんなやってるよ」という誘い文句が付けば、いずれ法規制の対象になるでしょう。
しかしどれだけ万能に見えても弱点はあるもので、耳コピの場合は「満足のいく耳コピができる音感が身につくまでに時間が掛かる」という点がしばしば挙げられます。
特に初心者の場合は”お手本の曲が複雑で聴き取れず、挫折する”という黄金パターンがあり、それによってDTM自体を諦めてしまっては元も子もありません。
そんな負けパターンを打破するためにいわゆる「耳コピ支援ツール」が日々生み出されているわけですが、その中で「deCoda」というソフトが一際、異彩を放っているのをご存知でしょうか。
耳コピ支援ツールも数あれど、利便性を追求するあまり「目コピ」にまで足を踏み入れてしまったソフトを、僕はコレ以外に知りません。
耳コピのハードルを下げようとして破壊してしまったあるツールの全容を、今回はお話ししていきたいと思います。
目次
「deCoda」の概要
zplane社からリリースされている、総合耳コピ支援ツールです。Win、Mac兼用。
プラグインではなくソフトなので、DAWを持っていなくても使用できるのがバンドマン等にも嬉しいところ。
手持ちのオーディオファイル(wav, aiff, mp3, wma, flac, oggに対応)を読み込むと自動で解析を行い、
- コード
- BPM(テンポ)
- キー(調)
- 拍子
- セクション(Aメロ、サビ等)
といった情報を検出、表示してくれます。
つまりdeCodaに曲を読み込んだ時点で耳コピの半分くらいは済んでしまうわけで、あとは提示された情報をヒントに細かい耳コピを詰めていけば良いという流れになります。
特にコード検出機能は初心者にとって、大きな助けとなるでしょう。上の世代から「過保護だ」という声が聴こえてくるようです。
とはいえ検出結果は必ずしも完璧ではないため、後述する多様な機能によって精度を高めていくことになります。
独自機能とその強み
deCodaの独自の機能とその強み、使用感について。
コード、BPM、キー等を自動で検出してくれる
コード
検出精度はそこそこといった感じ。
基本的にトライアド(三和音)で検出し、複雑なテンション等は見なかった事にしてきます。
あくまで目安として大まかな進行の流れを教えてくれる、くらいの感覚で使うのがちょうどいいと思います。
挙動を見る限りベースラインを基にコードを判別しているようで、逆にストレートなロックとかだと結構正確に採れたりします。
↑は無限大な夢のあとのサビ部分ですが、コード、タイミング共にほぼ完璧です。最近初めて「僕らのウォーゲーム」を見たらまんまサマーウォーズでビビりました。
検出したコードは自由に編集できるので、違っている部分は修正していきましょう。
BPM、キー
この2つに関してはかなり正確に検出してくれました。
たまに平行調(CとAm等)を間違えたりテンポを半分で検出してしまうこともありますが、手動で修正できるので実用上の問題はないと言えます。
ちなみにBPMは任意の箇所を基に再計算できるので、曲中でテンポに変更があっても都度、合わせ直すことが可能です。
任意のBPMを指定したり、キーを保ったまま再生速度を変える機能もちゃんと付いています。
拍子、セクション
拍子は僕の使い方に問題があるのか、4/4以外を検出することができませんでした。変拍子に合わせたい場合は手動で修正する必要があります。
バージョンアップで精度が上がったのか、現在はわりと正確に検出できるようになりました。それでもプログレとかはやっぱり無理があるようですが。
そしてセクション分けについてはコード検出に輪をかけてザックリなので、半分オマケくらいに捉えておいた方が良いでしょう。
外国の会社にとって日本の音楽は展開が複雑すぎるのか、1つのサビが3セクションに分けられていたりして顔がほころびます。
ちゃんと分けようとすると1つ1つ手動で設定せざるを得ないため、今後のアップデートに期待のかかる所です。
帯域を指定して試聴できる
deCodaには「フォーカスビュー」と呼ばれる、音域を帯域分布図で見ることができる機能が搭載されています。
たまにサンレコなんかでも見かける図ですが、この機能の真髄は任意の帯域だけを指定して試聴できることにあります。
選択されている帯域だけが再生されるため、特定の楽器の音に焦点を当てて耳コピすることが可能になるわけです。
イコライザーで帯域を狭める手法自体は一般的なものですが、分布図で指定できるのは視覚的に分かりやすい上に操作もしやすく、個人的に1番良いなと感じたところです。
初心者であれば眺めているだけでも帯域の理解の助けになると思いますし、プロの曲と自作曲を比較してみても発見があるでしょう。
音をピアノロールで表示でき、目コピが可能に
そして今回の焦点。なんとdeCodaには音をMIDIのようにピアノロールで示してくれるモードが存在するのです。
音程の上下がそのものズバリ表示されるため、最悪、耳で聴かなくても目で見て音が採れてしまうというオキテ破りの機能だと言うのですから驚きです。プロアクションリプレイもドン引き。
強く鳴っている音が濃い色で表示されるので、ボーカルやベースのライン、ギターソロなんかの単音を採る時には特に威力を発揮します。
コードも綺麗に鳴っていれば採れますが、音が込み合っていると上手く検出できないこともあるので過信はしない方がいいです。
そしてこのピアノロールビュー、見るだけではなく実際にMIDIノートを直接置くことができ、MIDIファイルで出力することも可能なのです。他社ツールを絶対に殺したいという強い意志を感じます。
音を長押しすればそのタイミングの曲全体の音をフリーズしたように鳴らし続けてくれるため、たとえ初心者でも音を合わせるのは容易です。
ハードルを下げ続けた結果もはや耳コピですらなくなりましたが、心強い機能であることは間違いありません。耳と心が疲れたら頼ってみると良いでしょう。
耳コピした”後”の練習がしやすい造り
このdeCodaをイジっている中で折に触れて感じるのが、耳コピした後の練習を意識した機能が盛り込まれていること。
例えば耳コピツールとしては珍しくメトロノームが付いているのですが、ただ鳴らすだけでなく、ループの直前に1~2小節分のカウントインを入れることができるようになっていたりします。
これはコピーした音を原曲に合わせて演奏しやすくするための配慮に他なりません。
上で紹介したフォーカスビューでも「指定した帯域”以外”」を鳴らすことができ、これも同時演奏用の簡易的な楽器オフ、ボーカルオフと捉えることができます。
そして右上に小さく付いているスライダーはミキサーで、上から
- 原曲
- インプット(ギターやベースなどを繋いで音が出せる)
- 打ち込んだMIDIノート
- 検出したコード
- メトロノーム
のバランスを変えるためのもの。
打ち込んだMIDIやメトロノームの音を主体に薄く原曲を流せば、そりゃ練習も捗ります。
特にインプットの後には手持ちのVST、AUプラグインを挿せる(Fx)ようになっていて、これは明白に「ギターやベースの後にアンシミュを嚙まして、曲に合わせて練習する」という状況を想定した造りであると言えるでしょう。
DTMerだけでなくバンドマンやボーカリストにも恩恵のある造りは、後発のツールならではという感じです。
注意すべき点
時間ではなく小節と拍で管理するため、操作に慣れが必要
deCodaはループする範囲を指定する際、時間(何分何秒)ではなく小節と拍によって区切ります。
45小節の1拍目から46小節の3拍目まで、といった具合です。
移動の最小単位は8分音符であるため、それ以下のタイミングを指定することはできません。
一応、マウスでさらに小さいループを指定すれば自由な範囲指定も可能ですが、最初から時間で指定できれば手間が少なくて済んだように感じられてしまいます。
範囲指定が基本的に
- Sect(セクション)
- 4Bars(4小節分)
- Bar(1小節分)
- Beat(8分音符分)
の4つのテンプレートを切り替えて進める造りであることも相まって、初めて触った時には操作感に戸惑うかもしれません。
日本語未対応のため、パッと見で分かりにくいボタンが多い
DTM用プラグインは日本語表示に対応していないのがむしろデフォですが、deCodaはパッと見ただけでは少し分かりにくいボタンや仕様がいくつかあります。
もちろんマニュアルを読めば済む話なのですが、当然のようにマニュアルも全編英語で読み切るのが割とダルかったので、個人的に迷いそうだと感じたものだけ解説しておこうと思います。
メトロノームのカウントイン
上半分がカウントインの設定になっています。
- オンにするとループする度にカウントインを鳴らす
- カウントインを1小節分鳴らす
- カウントインを2小節分鳴らす
2種類ある再生ボタン
下の普通の再生ボタンだと指定された範囲をループしますが、上の点が付いている方の再生ボタンだと、そのまま曲の最後までループせずに再生します。
ぶっちゃけ使い所がよく分かりません。
スペースキー(再生)と一緒にShiftキーを押すと点付きになります。
BPMの直接入力はできない
何か設定が変なのかと思ったらまさかの仕様でした。
BPMを変更する時はドラッグで上下して指定します。
ちなみに、BPMを変更したまま再生速度を落とすことはできないので注意が必要です。ここはちょっと不便ですね。
コレもアップデートで対応したようで、今は変更したBPMで再生できるようになっています。
耳コピ習得の踏み台として
地味にタッチパネルでの操作にも対応していたりするなど、後発のツールらしい意欲的な機能の多さが目を引くdeCoda。
特に初心者にとっては過保護レベルの助けになるのは間違いなく、それが60ドル程で導入できてしまうのですから、現実は辛いものだという認識を改めるべき時が来たようです。
「1日1000個MIDIノートを置け!」みたいなフィジカルトレーニングが意味をなさないDTMでも、耳コピだけは唯一、効果が明確な上達法です。
そういった重要な技能習得のハードルを越える為に一時踏み台に頼ることは、決して恥などではありません。
deCoda無しで耳コピできるようになるその日の為に、このツールは存在しているのですから。