マックで隣に座った女子高生が
という書き出しはあまりに有名ですが、そこに続くのは今回の場合、「2人同時に笑った時の声が5度でハモっていた」という僕の経験談になります。あと創作ではありません。
なぜ女子高生の笑い声がパワーコードになっていることに気付いたかと言えば、それはひとえに相対音感によるものでした。日々、耳コピやアドリブをする中で拙くも培われた感覚が、何故か昼飯時に火を噴いたという話なのです。
それは裏を返せば、相対音感を養うことで耳コピやアドリブが可能になるということでもあり、実際に数多の初心者がその感覚を掴もうと励んでいるのをよく目にします。
なので今回は、僕なりの「相対音感の感覚」を音源と文章によって表現することで、初心者の方が感覚を掴むきっかけになれば、という趣旨の記事になります。
前半の話は何だったんだとお思いかもしれませんが、遠い所から本題まで持ってきたので逆に褒めて欲しいくらいです。
目次
そもそも相対音感とは
「基準となる音と別の音がどれくらい離れているか?を感じ取る能力」を指す言葉です。
実際に作曲等をする上では大まかに2種類の出番があり、
- 同時に鳴っている複数の音の間隔を感じる=何のコードか分かる
- 異なるタイミングで鳴る複数の音の間隔を感じる=メロディのラインが分かる
といった結果に繋がります。
音の間隔が判別できれば耳コピが、楽器で再現できればアドリブができるようになるわけです。
「音感」と言うとセンスっぽく感じますが、実際は覚えゲーに近いと僕は感じています。いくつかの主要なコードのイメージを覚えていくことで、実際の曲の中で同じものが出てきた時に分かるようになる、という仕組みです。
絶対音感と相対音感
なお、相対音感と対をなす存在として「絶対音感(※)」というものがよく知られています。
「絶対音感と相対音感、どっちが良いのか?」という質問も定番ですが、作曲や演奏をする上ではどちらでも出来ることにあまり差はない、と個人的には結論しています。
誰よりも早く音程を当てた人だけが生き残れるデスゲームとかなら別ですが、作業段階でいくらかスムーズでも成果物は結局センスの世界になります。事実、プロでも絶対音感のない人がザラにいるのです。
またそもそも、絶対音感は5歳頃までにトレーニングを積む必要があり、今4歳とかでない限りこれから習得すること自体が不可能だったりします。その点、相対音感は誰でも何歳からでも養えるので、悩む余地そのものがないとも言えます。
「度数」を知っておこう
相対音感を養うに当たり、「度数」という概念を知っておくと事がスムーズに運びます。
度数とは、2つの音がどれだけ離れているかを表す単位のことです。「(基準の音)から〇度上、下」という使い方をします。
今回は簡単に、この9個の度数をそれぞれ「よく曲の中で出てくる雰囲気」だと思ってください。そのイメージを覚えることで、実際の耳コピで「同じ雰囲気」を探すことができるようになっていきます。
なお今回は初心者向けなので、解説に必要ない情報を限界まで削ぎ落としています。基本は押さえられるように書きますが、完全な理解には程遠いことをよく覚えておいてください。
一応、但し書きを付記しておきます。初心者の方は読まなくて大丈夫です。
- 最も理解しやすい「ドレミファソラシド」になるように「ド」を基準とする
- 紹介するのは、基本となる1度から8度まで
- 主要なコードだけに絞るため、3度以外の長短・増減は省略する
あと1つだけ、「基準の音が1度である」という点に注意が必要です。始まりはゼロ度ではなく1度なので、1個上みたいな感覚で1度上、等と表現するのは誤りとなります。
相対音感を体験してみよう
各度数の音源に、聴いた時の印象を併記していきます。
印象はあくまで僕個人の感覚なので、参考程度としてください。大事なのは、自分の中で各度数の雰囲気のイメージを固めることにあります。
1度
全く同じ音程なのでハモリになりません。一般的にはユニゾンと呼ばれます。
曲中では「複数の楽器が同じフレーズを弾いてるなぁ」とか「同じ音が連打されてるなぁ」と感じられればOKです。
2度
少し濁った響きなので、コードとして目立つ形で出てくることは多くありません。逆にメロディでは移動が小さくて済むため、かなり見かけます。
イメージとしては「不協和音一歩手前」って感じ。
ちなみにこの2度の音を1オクターブ上げると9度の音になり、少し清涼感のある綺麗な響きになります。
3度
長3度
コードの中でもかなり分かりやすい部類に入ります。イメージはまさに「とにかく明るい」というもので、素朴な明るさを感じたらまずコレだと思っていいでしょう。
↓の冒頭、「テレテッテッテ」の「テッテッテ」部分が長3度の音程です。この能天気な明るさをよく脳裏に刷り込んでみてください。
短3度
直前の長3度と比べると、明らかに深刻な感じなのがお分かりでしょうか。コレもかなり聴き取りやすいコードで、イメージはお聴きの通り「悲しみ」という感じ。
↓は全ての音を短3度の間隔で積んだもの。夫の不倫を嗅ぎ付けたみたいな緊迫感が印象的です。
4度
これも印象としては明るいものの、長3度に比べ、少し強いというか厚みのある響きが特徴です。
明るさと強さが同居している感じ、と言えば良いでしょうか。なんか「神が現れる時に差してる光」みたいなイメージが脳裏に浮かびます。脳内メーカーだったら「明明明明神神明明明光光光光光力光光光力」くらいの感じ。
この4度は「完全4度」とも呼ばれ、音響的に濁りの少ない綺麗な響きであることが特徴とされているので、それが神とか光っぽい安心感を想起させるのかもしれません。
5度
個人的に3度と同じくらい聴き取りやすいコードです。響きから明暗が失われ、石とかコンクリっぽい無機質さを感じます。
それが力のイメージに繋がるのか、「パワーコード」という別名がよく知られています。↑の音源よりも、もっと低い音域で鳴らした方が雰囲気が分かりやすいかもしれません。
なので鳴らしてみました。世界で最も有名な5度と言えば、やはりコレでしょう。
6度
明るいようで少しほの暗いような、曖昧な響きが持ち味。コードとしてはやや特殊な部類に入ります。
実作上ではその特性を生かし、長3度ほど明るいとも短3度ほど悲しいとも言いたくない、という場面でお茶を濁すために使われたりします。
↓は同じコード進行×2ですが、3つ目のコードを1回目は長3度に、2回目は6度にしてあります。一回目に比べて「察して?」と言わんばかりになっているのでよく耳を澄ませてみてください。
7度
少し怪しい雰囲気が漂っているように感じるのは、この音程が本来は不協和音であるからでしょう。画像で言うシの音を1オクターブ下げると、半音で隣り合っているのが分かります。
しかし不思議なもので、普通は不快に響くはずのこの7度も、コードとして音を積むと印象が全く違うのです。実際に聴いてみましょう。
1回目は長3度のコード、2回目はそこに7度の音を足しただけのものですが、2回目の方は豪華とかオシャレみたいな印象を受けないでしょうか。
7度に関しては2音での印象(怪しい)ではなく、実際に曲中で使われるコードの時の印象(オシャレ)で覚えた方が、実際の耳コピなどでは役に立つのでお勧めです。
8度
1周して同じ音に戻ってきた形です。しかし高さの違いがあるため、1度とは区別されます。
いわゆるオクターブで、最も聴き取るのが容易な度数と言っていいでしょう。印象としては「素直で芯が通っている」という感じがするので、曲中ではこれでメロディを弾くことでラインを目立たせる、という用法が一般的です。
コードではなくフレーズですが、オクターブと言うとまず↓を思い出します。
相対音感を自覚する日
上記の音源を聴いたら一発で開眼し、日常のあらゆる音が度数で聴こえるようになる……といった類いのドラマは、残念ながら現実にはそうないでしょう。
繰り返し聴く中で度数のイメージを自分なりに醸成し、一旦離れて好きな曲を聴いたりした時にふと、「ここのギター、5度では……?」と脳裏に稲妻が走る瞬間が訪れる。そんな風に大きく構えて取り組んでみてください。
僕の感覚としては、相対音感は「ゼロから身につける」のではなく、普段から無意識に感じているのを「この感覚が巷では相対音感って呼ばれてるのか」と再発見し、自覚的になるという方が近いように思います。
そのために書いてみた記事なのですが、果たしてどこまで出来たかは分かりません。それでも何か、手掛かりの一つになっていれば幸いです。