曲を作ることに慣れていくほど、無視することが難しくなってくるのが音質の問題です。
DAW付属の音源やフリーで入れた音源でも、曲を完成させるのに何ら問題がないのは勿論です。
しかし人にもよりますが、大体の場合において比較対象は市販の曲なので、どうしても自分の曲がジャスコ的に聴こえてしまうのも事実。
加えて、音楽が溢れている現代で「リスナーが違和感を覚えない程度の音質」を確保することは、作った曲が聴かれるための必須条件だと言えます。
そういう意味で、自作曲をプロっぽい音質に近づける有効な手段として有料音源の導入が挙がるわけです。
この記事では、そろそろ10年くらいDTM界隈をさまよっている僕がコスパや音質を鑑み、「初めて音源を導入する人におすすめを聞かれたら勧める音源」をまとめていきます。
自分の曲が市販曲のような音質になる体験は、何年やっていても胸が躍るものです。是非、ご自身の求めるレベルに合わせた音源を選んでみてください。
目次
マルチ(総合)音源と専用音源
最初に1つだけ覚えておきたいのが、音源には「専用音源」と「マルチ音源」の2種類があるということ。
特定の音色(ドラムだけ、ピアノだけ等)のみを扱う音源が専用音源、様々な楽器やシンセ等の音を一通りまとめて扱える音源がマルチ音源です。
種類 | メリット | デメリット |
---|---|---|
専用音源 | 専門性が高いので 音質を追求できる |
価格が高くなりがち 一つの音色しか扱えない |
マルチ音源 | 一通りの音色が一括で揃う | 音源のクオリティは 専用音源には及ばない |
僕の経験上の結論として、音源の導入自体が初めての人なら、最初はマルチ音源をおすすめします。
ジャンルにもよりますが、作曲に使う音色は多岐に渡ります。必要な音色が出てくる度に専用音源を購入していては、DTMどころではなく路頭に迷いかねません。
なのでまず最初はマルチ音源で満遍なく種類と音質を確保しておき、さらにこだわりたいパートが出てきたら専用音源を導入していく、という流れがベストです。
とはいえ、例えば「好きなクリエイターと同じ音源」という魅力には抗いがたいものだったりするわけで、そういうモチベーションに直結するような動機の場合は初めから専用音源を導入するも全然アリです。というか僕もこの口でした。
上記のような「マルチ→専用」という流れは、あくまで僕個人が考える一般論だと思ってください。なので、この後のおすすめもマルチ音源と専用音源のそれぞれを挙げておきます。
マルチ(総合)音源のおすすめ
SampleTank4
マルチ音源の定番とされているだけあり、ピアノからシンセ、ボンゴに至るまで大体の音色がコレ1つで賄えます。
試聴の通り音質も十分で、音源の立ち上げから曲の完成までをシームレスに一貫させることが可能です。
バージョンが3つあり、経済状況に合わせて購入できるのも嬉しいところ。
バージョン | 価格 | 音色の量 | 備考 |
---|---|---|---|
SampleTank4 MAX v2 | ¥46,000-前後 | 18,000種類、400GB | クロスグレード版あり |
SampleTank4 | ¥36,000-前後 | 6,000種類、100GB | クロスグレード版あり |
SampleTank4 SE | ¥18,000-前後 | 2,000種類、30GB | ダウンロード販売のみ |
バージョンの違いは音色の数のみで、SampleTank本体に搭載されている各種機能(レイヤー、アルペジエイター等)はどれを購入してもフルで使用できます。
Xpand!2
元々プロ御用達のProToolsに付属していたのですが、現在は独立した音源として他DAWでも使用できるようになっています。
Xpand!2の最大の特徴は音質でもプリセット数でもなく、価格にあります。
定価は8,000円前後ですが、頻繁にセールで100円とかになることで界隈では有名な音源なのです。酷いと無料配布することすらあり、なんか見ていて若干可哀そうになります。
DAW付属音源の出という事もあり、音質は他のマルチ音源と比べると後手に回りますが、0~100円で貰って文句まで言うのは忍びない限りです。
実際に使っても特に爆発したりもせず、2,500ものプリセットを持つ優秀な音源なので、セールを待って導入するのがお勧めです。
Xpand!2の価格はこちら
HALion 7
Cubaseでお馴染みSteinbergが出しているマルチ音源です。シンセ系の音色が豊富で、積極的な音作りが可能です。
正確にはサンプラーであり、最初から入っている音色だけでなく、自分で録音した音声を取り込んで音源として使うことができます。
下位バージョンのHALion Sonic 7 Collectionはその取り込む機能を省略したもので、用意された音色のみ使えます。
ちなみにさらに下位のHALion Sonic 7は無料でダウンロードできますが、音色プリセットが付いていないので単体では音が鳴りません。
バージョン | 価格 | 音色の量 | 備考 |
---|---|---|---|
HALion 7 | ¥42,000-前後 | 3,400以上のプリセット | |
HALion Sonic 7 Collection | ¥29,000-前後 | 3,200以上のプリセット | サンプラー機能なし |
HALion Sonic 7 | 無料 | - | 音色が付属しない |
KOMPLETE 14
いわゆるプロユースで、マルチ音源という括りでは最上位に位置する音源です。
実際は複数の専用音源をまとめたバンドル的なもので、本当の意味でのマルチ音源は中に含まれる「KONTAKT」というサンプラーがそれに当たります。
このKONTAKTには元々複数の音源が搭載されていますが、世界中で(有償無償を問わず)拡張音源が製作されており、音色を後から無限に追加していくことが可能です。
また、KOMPLETE 14に含まれる音源の一つ一つは全て、第一線で使用される音質を誇ります。コレ1つで地元じゃ負け知らずも夢ではないでしょう。
その対価として、やはり価格はなかなかのものです。しかしそれが価値に見合った値段なのは間違いありません。
バージョン | 価格 | 音色の量 | 備考 |
---|---|---|---|
KOMPLETE 14 ULTIMATE Collector’s edition | ¥257,000- | 141,000以上 | 最上位版 |
KOMPLETE 14 ULTIMATE | ¥171,800- | 84,000以上 | +¥85,900で1つ上へアップグレード可能 |
KOMPLETE 14 STANDARD | ¥85,900- | 43,000以上 | +¥85,900で1つ上へアップグレード可能 |
KOMPLETE 14 SELECT | ¥28,600- | 15,000以上 | +¥57,200で1つ上へアップグレード可能 |
最上位版なんてもう価格、音色共にヤケクソのような数字です。
そうなると目に付くのが一番安いSELECTですが、コレは
- 目玉の音源が付属しない(Massive X、Battery等)
- KONTAKTが機能制限版である
という、良さが価格と共に失われているモデルなのでお勧めしません。
個人的には、初めて導入するなら通常のKOMPLETE 14 STANDARDが丁度いいと思います。後で上位版が欲しくなってもアップグレードが可能だからです。
専用音源のおすすめ
専用音源は種類が多く、用途によって推すモノも変わるため、ここでは個人的に最推しの音源を1つだけ挙げていきます。
ピアノ音源
EZ KEYS – GRAND PIANO
音のリアルさ、という観点では「Ivory II」みたいな高級音源には敵いませんが、この音源の売りは豊富な打ち込み支援機能にあります。
- プロがジャンル別に作ったフレーズ(MIDI)が付属し、それを並べるだけでプロっぽいバッキングが組める
- コード進行を分析し、不自然にならないコードの変更を提案してくれる
- 目的の調へ一発でトランスポーズ(移調)できる
- 弾いている和音のコードネームをリアルタイム表示できる
特に1~2番目の機能を併せて使うのが有用で、たとえ「ピアノが弾けない+音楽理論に詳しくない」としても、プロの演奏技術を活かしつつオリジナルの進行が作れてしまうのです。
それでいて価格は15,000円程度と、数万が普通のピアノ音源界隈で確固たるポジションを確立しています。
ちなみに音色もグランドピアノだけでなく、エレピやパイプオルガンなど一通りの種類が揃っているので、もし複数欲しい場合は好きな3つを選んで買えるバンドルを選んだ方が安く済みます。
ドラム音源
BFD3
「おすすめのアニメは?」に「ドラえもん」と答えるレベルで捻りがないですが、総合的に考えるとやはりコレが最もお勧めしやすいです。
話題に上がる時は必ず音質の良さがセットで語られる音源であり、極めれば不気味の谷を越えるほどのリアルな打ち込みが可能です。
最も推しているポイントは対応できるジャンルの幅広さで、ジャズからデスメタルまで愛用者がいるというのですから恐れ入ります。もちろん僕もその一人↓です。
定価は43,000円ほどですが、最近はセールで半額程度になることも多く、以前より入手もしやすくなりました。
ちなみに、個人的には長い目で見るならBFD3くらい音作りの自由度がある音源がお勧めですが、「音作りより作曲に時間を割きたい」という人には即戦力であるAddictive drums 2の方がしっくりくるかもしれません。
ギター音源
AMPLE GUITAR
普段、ギターは自分で弾いてしまうため、音の良さと値段のバランスだけで選びました。
打ち込みギターは得てしてバレやすいものなのですが、コレは詳しくない人が聴いたら分からないと思います。アコギなんかは家だと鳴らしにくいので、この音質なら差し替えもアリですね。
懸念点としては、ギターのモデルごとに独立した音源になっていること。一つ買ったらストラトもレスポールもアコギも鳴らせるのではなく、それぞれ別で買う必要があります。
価格は1つ辺り15,000~20,000円程なので、用途を絞って欲しいものだけ買うか、複数買うならバンドル版で買う方が安く済みます。
ベース音源
MODO BASS 2
PC上でベースの音をシミュレートして鳴らす「物理モデリング」と呼ばれる方式なので、ピックアップの位置や弦のサビ具合までイジれるのが特徴です。
長らくベース音源の番長だったTrilianがやたらと引き合いに出されますが、個人的には音質はTrilian、打ち込みの自由度はMODO BASS 2で結論。利便性を取ってコレにしています。
動作が軽いのでデモ段階でとりあえず立ち上げ、そのまま本チャンに採用することがめっちゃ多いです。
MODO BASS 2を導入して以降、デモ完成後に自分で弾き直す手間がなくなったので重宝しています。
シンセ
Serum
リリース自体は2014年という事で古参の部類ですが、今となっては現代EDMシーンのスタンダードにまで上り詰めてしまっているシンセです。
少し前まで子供から大人までMassiveマッシブ言ってたと思うのですが、今は誰もがこのウェーブテーブルシンセに夢中で、出回っているプリセットの数も膨大。
とにかく現代的な派手な音がするのでアナログっぽい質感が好みならおすすめしませんが、それ以外のニーズは大抵賄えてしまうのではないでしょうか。
音質は曲の全てではないが、重要な柱である
音質が曲の良し悪しを決めるわけでは勿論なく、最優先がメロディ、コード、リズムからなる曲自体の完成度にあることは間違いありません。
しかし冒頭でも書いた通り、誰もが音楽を作れて曲が溢れている現代で「最低限の音質」が担保されていない曲が、聴かれる機会に恵まれにくいのは確かです。ある意味、ドレスコードに近いと言えるでしょう。
そして、作った曲が聴かれないという状況はモチベーションの低下にも繋がります。
最初こそ作ること自体が楽しいという動機も成立しますが、さすがに全く反応が無いと独り相撲感が堪えがたくなってきます。また、反応を貰うことは自己満足ではなく、自身のスキルアップのために必要なことでもあるのです。
流石にDAWの導入と共に有料音源を用意すべきとまでは言いませんが、曲作りに慣れ、その上で今後もDTMを長く続けていく予定があるのであれば、リスナーが違和感を覚えない程度の音質はなるべく早く確保しておくべきです。
かといって生活に困窮するほど買い漁るのも行き過ぎなので、コレと決めた1つにバシッと投資するくらいをお勧めしますが。