何故そうなるのかは未だに解明されていないのですが、ヒトはDTMを始めて数か月経つと「コンプレッサーというエフェクターを使うと曲が聴きやすくなる」という知識をどこからともなく自動的に得ます。男子中学生が自然と自室にティッシュ箱を置くようになるのと、どこか似ていますね。
その後の展開も大体の場合において同じです。「コンプ 使い方」でググって最初に出てきたページに書いてある通りにDAW付属かフリーのコンプを挿し、なんとなくパラメータをイジること小1時間。
「全然変化が分からないけどとりあえず差しとくか!」
こうして効果不明の謎のエフェクターX(※コンプ)が全トラックに挿されることになります。
僕の場合はこの後、諦めるどころか何故か逆にクソ高い実機のコンプを購入してみるという奇行によって結果的に使い方を体得したのですが、もちろん全くおススメできないやり方です。
コンプレッサーはとにかく変化が分かりづらいので、初心者DTMerの最初の壁になることが多いのです。
なので今回から数回に分け、「初心者でも絶対にわかる!コンプレッサーの使い方」みたいなベッッッッッタベタな内容を書いていこうと思います。
そんな感じの解説ページなど死ぬほどあるのは百も承知ですが、しかしその表現は人によって大分違うので、もしかしたら僕の持つイメージがしっくりくる人もいるかもしれない、とも思うのです。
アナタがそうであることを祈りつつ、とりあえず僕の持てる全てを使ってまとめていこうと思います。
今回は「コンプレッサーがミックスで使用される理由」について。
目次
コンプレッサーをミックスで使う理由
コンプレッサー(以下コンプ)とは、ことDTMにおいては音を圧縮するエフェクターのことを指します。
そして今回の主題「そもそもなぜ曲を作る過程で音を圧縮する必要があるのか」ですが、その答えは「コンプを使わないと曲全体の音量がビックリするほど小さくなってしまうから」というものになります。
音量を大きくしたい vs 音が割れるのはNG
前提として、全ての音は大きさが0㏈(デシベル)を超えてしまうと割れてしまい、ノイズが発生して聴くに堪えない音質になってしまう、という絶対的な制約があります。
なので曲を作る場合、その曲に出てくる全ての音を0㏈以下に収める必要があります。
これは音量を示すメーターです。1回目の音は-3.4㏈なので音割れしていませんが、2回目は1.6㏈なので赤いランプが点灯し、音が割れていることを示しています。
この制約を頭に入れた上で、録音した音を視覚的に見てみましょう。このような↓波形で表されます。
見て頂ければわかりますが、音の立ち上がりの部分が最も瞬間的な音量が大きく、だんだん減衰していって最後には無音になります。これが一般的な音の鳴り方です。
もし仮にコンプを使わずに曲を作った場合、全ての音はこの「一番音量がデカい瞬間」が0㏈を超えないくらいの音量に調整されることになります。
しかし見て分かる通り音量の大きい部分は全体の5%くらいで、後の部分はそこまでは大きくありません。つまりこの音を耳で聴いた時、その印象は「全体的に小さい音」になります。
これが曲を構成する全てのパートで起きた場合、結果として曲全体が音量に乏しく、迫力に欠ける印象になってしまうのです。
ちなみに、昔はそれが普通でした。昭和の曲を令和の今聴くと比較的、音が小さいように聴こえるはずです。
解決策としてのコンプ
しかし音楽が近代化するにつれ、もっと迫力のある、いわゆる「音圧の高い」曲が求められるようになりました。
でも音が割れるほど音量を上げることはできない。その命題の解決策として用いられたのが、何を隠そうコンプなのです。
コンプは音の聴き心地をほとんど変えることなく、音量の出ているところだけを圧縮することが出来ます。
そういう処理をコンプですると、上の波形がこういう感じになります。
音量の突出していた部分が無くなっているのが分かります。
これは変化が分かりやすいように極端に掛けたらやり過ぎてしまった形ですが、結果として音量の大きい部分と小さい部分の差が少なくなりました。これなら全体の音量をもっと上げても大丈夫そうですね。
そしてその分、聴く人にとっては全体的に音量の大きく聴こえる音が作れるわけです。
つまり、コンプに求められているのは「圧縮して音量差を平均化することで密度を高め、大きく迫力のある音にする」という役割なのです。
そして勿論あるデメリット
上記のようなメリットと共にこれもよく言われていることですが、コンプは掛けすぎるとエラい目に遭います。
仮に上の画像のように音の突出している部分がほとんど無くなるくらいまで圧縮してしまうと、その音が鳴っている間、ずっと最大音量で鳴っているような状態になってしまうため、不自然に抑揚のない曲になってしまうのです。
音の抑揚は音量の大小で表現され、それが感情表現になります。それをガチガチに圧縮してしまうということは、究極、シンセみたいな0と1(音が出てる/出てない)しかないような音になっていくわけです。
EDMなど元々そういうジャンルなのはそれでいいのですが、生演奏が主体のバンドサウンドとかでこうなると、人形が演奏しているバンドを見るような不気味さが漂います。それはもはや音楽ではなく、ブザーみたいな信号に近いでしょう。
個人的には一度、自分の曲の全ての音に思い切りコンプを掛けてミックスを完成してみるといいと思います。
音圧が上げ放題なので異世界に転生してチート攻略をしているような気分になりますが、完成した音源は見るに堪えない怪物になってしまっているという、王道RPGのような展開を体験することが出来ます。
ガッツリ失敗例を体験することで「何故、そうしてはいけないのか?」が身体でなく心で理解できますし、「やり過ぎ」を知れば「程よい塩梅」も分かってきます。
数記事に分けてコンプとの付き合い方を項目別にまとめていきます
以上が、コンプレッサーをミックスで用いる理由と求められている役割になります。
次回からは具体的なツマミの説明なんかを記事にしていきますが、そもそも何故使うのか、という部分をまとめておかないと記事の意図が上手く伝わらないように思ったので、今回は前提の部分だけを書きました。
ぶっちゃけこういう概要的なページって僕が初心者の時は全て飛ばしてたので、書く意味は。みたいになってはいるのですが、いざ発信する側になるとどうしても必要に思えるので不思議なものです。それでも読んでくれた人はありがとうございます。
今後、更新した内容はここにもリンクで更新していきます。
今はさぞめんどくさいであろうコンプですが、一度好きになるともう離れられなくなります。覚悟しておいた方がいいでしょう。