初心者にこそデジタルEQの決定版を。「fabfilter Pro-Q3」【レビュー】

fabfilter pro-q3
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「一番いいのを頼む」

そんなセリフがインターネットを席巻したのは昔の話ですが、令和を迎えた現在、もし「一番いいイコライザー」を頼まれたとしたなら、fabfilter社の「Pro-Q3」を推す他ないでしょう。

fabfilter pro Q3

人、環境、用途などの条件が違う以上、「一番いい」の回答が多岐に渡るのは当然ですが、そういったあらゆる場面において常に高い点数を出せる万能EQであり、プロアマを問わず世界中で愛されている有名モデルがコレなのです。

もちろん僕もそんなpro-Q3単推しおじさんの一人でして、現在の依存ぶりを鑑みると多分、後生大事にしていく感じだと思います。
たまに気付いたら1トラックに3つ刺さってたりして変な声が出ます。

そんなわけで今回は、「デジタルEQの決定版」とも呼ばれるその所以をレビューしていこうと思います。

一つ上のいい装備を探しているあなたの参考になるよう、推しメンとはいえ弱点なんかについても公平に触れていきますので是非お見逃しなく。

イコライザー

【初心者向け】イコライザー(EQ)がDTMで使用されるワケ【概要を解説】

2023.09.30

 

世界でウケる抜群の操作性

pro-Q3を導入する理由の95割がコレです。

「人をダメにするEQ」といった感じの徹底的に追及された操作のしやすさこそが、pro-Q3が圧倒的支持を得ている一番の理由なのは間違いないでしょう。

以下に挙げるような特徴の一つ一つは他のEQでも見かけるものですが、その全てを高い精度で併せ持っていることが唯一無二なのです。

 

アナライザー(波形表示)で視覚的に音を確認できる

対象の音を波形で表示してくれることで、出過ぎor不足している帯域を文字通り見極める事ができます。

特に「耳だけで加工すべきポイントを特定できる自信がない」という僕のような今ドキDTMerにとっては、必要不可欠と言える機能でしょう。

アナライザー pro-q3

しかしそこは流石世界のpro-Q3。アナライザーと言えど、ただの波形表示で終わりません。

何より強力なのは、他のトラックの波形を同時に表示してマスキング(音の被り)している帯域を検出してくれる機能を持っている事。

マスキング

画像では白い波形がベース、赤い波形がキックです。80Hz辺りの被っている帯域が赤く強調されているのが分かります。

被っている箇所が判明したなら、後はEQでカットしてあげるだけで帯域の整理が終了してしまうのです。

帯域の被りを耳で判断するのは暦の長いDTMerでも苦戦する作業なので、それを視覚的に教えてくれるというのはもう、お膳立てを通り越してほぼ介護と言わざるを得ません。

また他にも、マウスオーバーすると波形のピークを表示してくれるため手を加えるべき帯域に検討が付けやすかったり、

マウスオーバー

音域の表示を周波数(Hz)から鍵盤に置き換えられるのでどのくらいの高さの音なのかが理解しやすかったりと、ユーザーへの配慮が隅まで行き届いている印象です。

周波数 ピアノロール

 

カット、ブーストといった操作が直感的に行える

バンド(※カットやブーストを行うポイント)の設置がワンクリックで済むほど容易です。

置きたい箇所をクリックし、加工したい方向へドラッグするだけ。

band point 設置

微調整が必要なら下のメニューでノブを動かしたり、直接数値を入力することもできます。

またこのメニューにバンドの設定(後述)が全て揃っているため、マウスの移動が最小限で済む設計なのが地味に考えられているなと感じるところです。

pro-q3 menu メニュー

「ざっくりローカット入れとこ」みたいな処理なら数秒で出来てしまうので、”とりあえず”で刺す頻度が異常になりがち、というのがpro-Q3あるあるだったりします。

 

依存の捗る機能が豊富

とはいえ、ただEQとして必要な機能を過不足なく備えているだけではこれほどまでにバカ受けする事も無かったでしょう。

その人気が確立したのは、以下のようなプラスαの使い勝手も評価されたからに他なりません。

捗る機能の一覧
  • バンド単位での試聴
  • ダイナミックEQ
  • 処理方式の切り替え
  • EQ Match機能
  • M/S等の適用範囲指定
  • 多すぎるEQカーブ

 

バンド単位での試聴

pro-Q3で設置したバンドは全て、その適用範囲内の音だけを個別に聴くことができるようになっています。

帯域 リスニング

今処理している帯域がどんなキャラクターなのか?が非常に分かりやすくなるため、例えば耳障りな周波数を特定したりすることが容易になります。

あと特に初心者の場合、各帯域のキャラクターを覚えるのに使うのも有効なのでおすすめです。

 

ダイナミックEQ

最近巷で話題の機能もちゃんと押さえている辺り、なかなか抜け目ないですね。

通常のEQでは仮にカットを入れた場合、曲を通してずっとカットされたままになるわけですが、ダイナミックEQはコンプレッサーのように「設定した音量を超えた時だけカットを入れる」という挙動を取らせることができます。

ベースなんかはたまに、何故か特定の音域だけやたら爆音になる時があるのですが、そんな時に

「低音感は損なわずに、音がデカい時だけ押さえて欲しいの!!」

みたいな等身大のアタシ(笑)を受け止めてくれるわけです。

ちなみに動画にある通りサイドチェイン(外部の音をトリガーにする方法)でも動作可能なので、マスキング検出機能と合わせて使うとさらに帯域の整理が捗っておすすめです。

 

処理方式の切り替え

pro-Q3は、次の3つの処理方式を任意に切り替えることができます。

3つの処理方式とその特徴

  1. Zero Latency(位相がズレるが遅延しない)
  2. Natural Phase(デジタルっぽさを軽減する)
  3. Linear Phase(遅延するが位相ズレを起こさない)
Linear Phase

使い分けの基準はズバリ、「位相のズレを気にするかどうか」という点にあります。

音とはそもそも空気振動の波ですが、EQで音を加工するとその波がズレて他の音と干渉し、打ち消しあって聴こえづらくなることがあります。

この現象を「位相ズレ」と呼ぶのですが、かなり極端な加工をしない限りは正直、そこまで劇的に音が変わったりはしません。格付けチェックで出題されるレベルの微妙さです。

なのでほとんどの場合は①を使用しますが、マスタリング時など、微妙な音質の差を気にする場面では③を使うこともあります。
ただ、③は位相ズレが起きない代償として音に遅れが出てしまうので、どうしても位相ズレが気になってしまう場面のみに限られるでしょう。

ちなみに②はマニュアルによるとアナログEQを模した挙動になるらしく、遅延もなく位相も比較的ズレにくいようです。個人的には違いが微妙すぎるので、たまにおまじないとして使うかどうかみたいな感じです。

 

EQ Match

他の曲の音質の傾向を、自分の曲や音に適用できる機能です。

動画は前世代のQ2での操作ですが、pro-Q3でも手順は全く一緒です。

憧れのあの曲に聴き心地を似せられる画期的な機能ですが、実際使ってみると感動はするものの「自分の曲には合わない(確信)」となることが多かったりします。

なので僕は実戦で使うより、「自分の曲が参考曲と比較してどうなっているのか?」を分析するための学習用として使うことが多いです。聴いた時の印象よりも実はずっと高域が出てたりするなんてことに気付けるため、耳の向上に一役買ってくれるのです。

 

M/S等の適用範囲指定

pro-Q3のEQバンドは全て、個別に適用範囲を設定できるようになっています。

M/S

例えばミックス全体に適用するとして、「ミッド成分にだけローカットを入れ、サイド成分は緩やかなハイシェルフをかけて広がりと音圧を出す」みたいなことが1台で可能なのです。

 

多すぎるEQカーブ

EQカーブが他のモデルと比べても豊富なのも特筆すべきでしょう。

EQカーブ 種類

かなり極端な加工に見えるものもありますが、適用してみるとそれほど変に聞こえないのが不思議なところ。

また、角度の種類も異様です。他のEQでは多いものでも30dBくらいまでしか見たことがありませんが、pro-Q3は驚異の96dB、そして完全カットの「Brickwall」までが存在します。

fabfilter pro-q3 dbBrickwall Hi-pass

たまに冗談で言う「崖みたいなローカット」がマジで崖です。海外の狂気はシャレにならない感じがして怖いですね。

 

音質と弱点に関して

音質

「カットに向く」という下馬評通り、スッキリした音質です。クセのないナチュラルな音と掛かり具合なので、グラフィックの見た目通りに効くというイメージ。

周波数をイジるというEQの特性上、元の音をいくらか損なってしまうのは仕方のないことなのですが、pro-Q3はそれがとても少ないと言う意味で「高音質である」と評価を得ているのだと思います。

 

弱点

唯一の弱点はベタで恐縮ですが、やはりキャラクター付けには向かないことでしょう。

「もっと存在感のある音にしたい」という目的でブーストするような場面では、どうしても往年の名機と呼ばれるアナログEQ(もしくはそのモデリングプラグイン)の持つ、良い意味での粗さが重視されます。

まぁそもそもキャラを求めてデジタルEQをチョイスする方が謎なので、役割の棲み分けに当たるものと言えます。

あと強いて言えば、手の伸びにくい値段もそうでしょうか。
EQ単体で2万前後と言う価格は、特に初心者にとってはなかなか勇気を持ちにくいところです。

ただ僕の場合はですが、結局は早く買わなかったことを後悔しました。
特に安いEQを買って満足できずに他に目移りし、その合計でpro-Q3買えたやんけ的な紆余曲折の果てに買ったので、後悔もひとしおです。

使える支出額に限りがあるからこそ、安いEQに小銭を失うくらいなら最初にpro-Q3をドン、の方が確実に結果が良いと感じます。

 

デジタルEQより愛を込めて

「初心者からプロまで」のキャッチフレーズを忠実にこなすことは、決してどんなプラグインにもできることではありません。

fabfilter社のベンダーとしての実力が伺い知れますが、事実、コンプなどの他のプラグインも軒並み高評価を得ています。

またpro-Q3は、コロコロに匹敵する盛りだくさんの内容でありながら負荷が軽いことでも有名です。

是非、プロジェクトの隅から隅まで刺し倒してfabfilterの技術の粋を体感してみてはいかがでしょうか。

 

ABOUTこの記事をかいた人

当ブログ管理人です。 DTMを10+x年、ひっそりやっています。 記事内容をもっと詳しく知りたくなったら是非、オンラインレッスン↓へどうぞ。