去る2019年4月14日、東京は渋谷のクラブで行われたDJイベント「 TOKYO WAVE! 」を観に行く機会がありました。
クラブと言われるとEXILEのPVみたいなイメージが強く、果たして五体無事に戻ってこれるだろうかという不安もありましたが、何より懸念していたのは僕がEDMを聴かない人間だということでした。
元がバンド畑の出なのもあり、ポプテピピックのOPやJust Be Friendsのようなポップ寄りのシンセ曲を聴く程度で、ZeddやAvichiiは全く通ってきていません。
そんな状態の成人男性が5時間に及ぶDJイベントに参加するということで、下手をすれば会場の隅で一杯のドリンクを5時間かけてチビチビやるようなことになりはしないかと考えていたのです。
その結果について、記憶が鮮明なうちに「EDMを聴かない男が生まれて初めて参加したDJイベント会場で見えていたもの」と共に残しておこうと思います。
目次
会場の空気感
やはり知識が偏っていたのか、クラブと聞いてイメージしていた絵が完全にキャバクラだったのですが、実際は小さいライブハウス程度の広さの普通のスペースでした。
画像では見えにくいですが下にDJスペースがあり、その手前に客席スペースとの仕切りが渡されています。DJ後方の壁にはプロジェクターで常に映像が映し出されていました。
アットホームはさすがに言い過ぎですが、普通のライブ会場が小規模になったものという雰囲気だったので、来てみれば別に怖がるようなものは何もありませんでした。逆に黒人セキュリティーは一回見てみたかったので残念です。
集まっていた人々についてもごく普通、というかむしろ紳士的な人が多く、狭い会場でのすれ違いで頻繁に会釈し合う様子が見られました。それはDJが始まって盛り上がりが頂点に達しても崩れることはなく、終始平和なイベントでした。
そもそも主催の「東京WAVE」自体がネットで著名な新進気鋭のトラックメイカーによる集まりなので、そのファンはネット文化に明るい人が多く、物々しい雰囲気にはなりにくいのかもしれません。男女比も7:3くらいでした。
超低音の中にいる、という状況
爆音自体はバンド系のライブで経験済みでしたが、EDMの爆音は種類が違いました。何はともあれ低音です。
5歳児くらいあるスピーカーが打ち出す低音はまさしく「身体で浴びる」感覚の圧倒的なもので、それが全身に振動として響いて何とも気持ちいいのです。感覚派のヤンキーが車でフルテンにするのも頷けます。
またDTMerであれば制作中にキックやスネアがバシッと鳴ると気持ち良く感じる経験があるかと思いますが、アレを数十倍にしたドデカいキックとスネアも動物としての本能に働きかけてきます。
エコーズよろしく「ドゥン」「バシッ」という書き文字が目の前に見えるかのような圧倒的存在感に、身体も思わず悪めの縦ノリになっていました。
そしてそれほどの強烈な爆音と明滅する光の中にいると、不思議なことに逆に脳内が静かになり、音楽と自分しか存在していないかのような感覚に陥ることがありました。
軽いトランス状態なのか頭の中の情報が全て一旦消え、音の一つ一つがよく聴こえるあの感覚は、もちろん日常生活では得られない類のもの。それを求めてイベントに参加する人もいるのかもしれない、と思いました。
とはいえ、これだけの爆音は耳に多少なりとも負担がかかります。そういう環境にあまり慣れていない自覚がある場合、純粋に音量だけを下げてくれるライブ用の耳栓を持参した方が良いと思います。
会場でも何人かコレを着けている人を見かけました。上記のような超低音が体感できる環境は結構癖になるので、長くイベントに参加するなら耳の保護対策はしておきたいところです。
「人に喜ばれる」という価値
イベントを見ていて一番強く考えたのが、「人に喜ばれる」ということの価値についてでした。
イベントではDJが流した音楽に合わせて観客は体を揺らし、DJの煽りに合わせて手を上げ、ジャンプしていました。そしてそのDJの定番の曲(僕は分かりませんでしたが)が掛かれば大きな歓声が上がりました。
その時の僕は楽しむ側でしたが、普段は楽しませる側(DTMer)でもあったりします。そして目の前でたくさんの人々を楽しませているDJは、何にも替えられない価値を創り出しているように思いました。
同時に、感情はDJ側にも移入していきます。
これだけの人々(実際はさらに多い)が自分の作った曲やパフォーマンスを楽しんでくれている状態というのは、素晴らしく幸せな事でしょう。その感覚は、自分にも覚えがあります。
部屋で制作している時にはどうも実感しにくいですが、自分が作り出したものを喜んでくれる人がいるという事が、作り手にとって最大の喜びなのではないか。それをぼんやりと再認識したような気がするイベントでした。
イベント「東京WAVE」への所感
その他、僕の主観で良かったところを雑多に挙げていきます。
ライブショーとしての工夫
僕の中での一般的なDJイベントとは、単純に「DJが曲を流し、それに合わせてVJが映像を繋げる」というものでした。
しかし東京WAVEにおいてはそれだけではなく、イラストレーターさんがその場でイラストを描く様子を映し出す「ライブペイント」を盛り込んだり、既存曲を流すのが普通のDJプレイでボーカルが生歌唱を披露するなど、ショーとしての楽しめる工夫もなされているように感じました。
Thanks for an amazing party, TOKYOWAVE!!!#東京WAVE #TOKYOWAVE pic.twitter.com/hoZaXLaOct
— (浅葱)ニオ🍆@TOKYOWAVE余韻 (@Nioh02) April 14, 2019
中田ヤスタカ feat. 苺りなはむ
えちえちのえち だたネ🐼🍓💙#tokyowave #東京WAVE pic.twitter.com/qZa090iwt6
— はるぴ ⚡💚✡️ (@haru_rca) April 14, 2019
DJ個々の工夫
出演者も工夫というか、楽しませるネタを仕込んできていていました。個人的に印象深かったのは次の2つ。
- HoneyComeBearというDJが前のDJと入れ替わって入った時、「どうもーハニカムベアーでーす」みたいな通常のマイクMCはせず、音声で「ハニカムベアー」とだけ流して曲に入った
- 中田ヤスタカがDJの途中で急にiPhoneの着信音だけを流し、それに段々アレンジを足していって繋ぎに戻ってくるという演出をした
演者との距離感
いかんせん他のイベントを知らないのでアレですが、僕の知るバンド系ライブと比較すると、だいぶ出演者と観客の距離が近いと感じました。文字通り手を伸ばせば届く距離です。
バンドのライブはステージで演奏するため一段高いところでパフォーマンスをしますが、DJはほとんど観客と同じ高さでした。両者にはPAの違いがあるため特に良し悪しなどありませんが、クラブイベントではこの“同じ目線”感がフロアの一体感に貢献しているのかもしれないと少し思いました。
距離感というところで言えば、出演者はVIPルームみたいな楽屋でモニター越しに出番を待っているものと思いきや、普通に客席に出てきて共演者のプレイを聴いていたのでビビりました。あとずっと自分の前に立ってたお兄さんが後で出演者で出てきたのもビビりました。
垣根の向こうを覗いてみる
ここで「このイベント以降、Future Bassしか聴けなくなりました」などと言えればいい感じに納まるのですが、残念ながら今のところ特に音楽的趣向に変化はありません。今後、自分の見識が広がるのを待つばかりです。
しかしあの夜にあのイベントから貰ったものは、何も音楽的視野だけではありません。DJ、DTMerと肩書きこそ違えど、作り手として共通するものがそこには確かにあったのです。
時に全く縁のない界隈の熱に触れ、感化されてみるのも刺激的です。
もし自分の音源が使われるイベントがあったなら、顔を出してみるのもいいかもしれません。