↑の入りで有名な、ギターのフィードバック奏法(※)。
まさに””””ロック””””という感じの特徴的なサウンドは、いつの時代も数多のギターキッズの心を捉えてやみません。コレを全校生徒の前でキメるという妄想はテロリスト撃退の次に多いとも言われています。
雰囲気が出るのでバンドサウンドの曲を作る時なんかはよく入れたくなるのですが、しかしそれがことDTMとなると、「再現にアンプが必要で宅録では気軽に録れない」という問題が持ち上がってきてしまうのです。
ほんの数秒のフィードバックを用意しようと思うと、
- 何らかの防音対策を自宅に施し、アンプを用意して録音する
- スタジオを借り、機材を持ち込んで録音する
- DAW上で音を加工して疑似的なフィードバック音を作る
と費用対効果がなしよりのなしになってしまうため、結局採用を諦めて「逆に無い方がまとまってる気がする」と無理やり自分を納得させてしまうことも少なくありません。
そこで「あっじゃあモニタースピーカーにピックアップ近づければいいんじゃね?」と死亡フラグを立ててしまうその前に、「Blue Cat’s AcouFiend」というプラグインを使うと幸せになれるかも、というのが今回の記事となります。
このプラグイン、なんとアンプ無しでギターのフィードバックを収録できるという物理法則を嘲笑うかのような機能を持っていて笑ってしまったので、以下、その詳細をレビューしていきたいと思います。
(※)音の出ているアンプにギターのピックアップ(弦の振動を拾うマイク)を近づけることで音が無限ループし、増幅の末にあたかもギターが叫んでいるかのようなカッコいい音が鳴る、というエレキギターの奏法。
目次
Blue Cat’s AcouFiendの概要
Blue Cat’s AcouFiendは、Blue Cat Audio社が出しているギターフィードバックシミュレーターです。
ライン入力したギターのトラックに挿すと、アンプからしか出ないはずのフィードバック音をDAW上で鳴らすというバグ技みたいな芸当をカマしてきます。INTENSITYといい、近頃のプラグインときたらもうホントに何でもアリで困ります。
例えばOmnisphere等のシンセにはギターフィードバックを再現した音色が入っていたりもしますが、そういう疑似的な合成音ではなく、本物のギターの信号を基にフィードバックを生成するので、やたらリアルな音がするのが特徴です。
そして何よりビビるのは、その生成したフィードバック音の長さや高さを自由にコントロールできること。
実機のアンプでは鳴る音に若干運の要素が入るところ、Blue Cat’s AcouFiendでは後述する操作によって好きな高さや長さでフィードバックを鳴らせてしまうという、人類の傲慢の果てみたいなものが感じられる設計になっているのです。
主な機能と使い方
使い方は基本的にはシンプルで、「ライン入力したギターのトラックに挿して弾くとフィードバック音が鳴る」というもの。
そして実際に鳴らしたのが↓。(音量注意)
単音は勿論、コードを弾いてもフィードバックを生成してくれます。曲の最後でジャーンってやって終わる時とかすごい雰囲気が出るのでおすすめです。
Blue Cat’s AcouFiendの操作は大別して、以下の3つのセクションを使い分けて行います。
①Dry&Wet、フィードバックの高さ指定
Dry、Wetノブで「ギターの実音とフィードバックの音量」を、中央のホイールを回すことで「実音の音程に対してどれくらいの高さのフィードバックを生成するか」を設定します。
最初は実音から1度、2度というインターバルかと思ったのですがどうやらそうではなく、各設定に固有の高さが設定されているようです。ちなみに初期設定では(自分で鳴らした限り)以下のようになっていました。
- SUB → 実音から1オクターブ下
- 1st → 実音と同じ音程
- 2st → 実音から1オクターブ上
- 3st → 実音から1オクターブ+5度上
- 4st → 実音から2オクターブ上
- 5st → 実音から2オクターブ+4度上
恐らく実機のアンプで一番鳴りやすい高さをプリセットとして用意しているのではないかと思います。より細かく音程を弄りたい場合は、後述する「TRANSPOSE」機能を活用しましょう。
②フィードバックの発生の調整
ノブが密集していて嫌ですが、役割を覚えてしまえば恐れることはありません。
左から、
- Fade In → 実音が入力されてからフィードバックが鳴るまでの時間
- Fade Out → 実音が消えてからフィードバックが消えるまでの時間
- Threshold → 入力レベルがこの数値を下回るとフィードバックが消え始める
- Attack → 弦のアタックに対する感度
- Pitch → 下げた分だけフィードバックの音程がビブラートやスライドに追従するようになる
とほぼ文字通りのツマミになっているのです。
フィードバックの高さはおろか発生、減衰のタイミングまでイジれてしまうということで、熱意なのか狂気なのか判断に困ります。
そしてAttackだけ説明が雑なのは、マニュアルには「指を動かしたり弦を弾いたときにフィードバックが早く消えてほしい場合は値を上げる」とあるものの、変えてもほとんど違いが分からなかったからです。有識者のコメントが待たれるところ。
③フィードバックの帯域と音程の設定
①では予め設定された音程の中から選ぶ形でしたが、こちらではより細かくフィードバックをカスタマイズすることができます。
左側の「RANGE」はフィードバックを発生させる帯域を限定できるというもので、例えば低い音域では発生しないようにしたり、逆に低音弦を弾いても必ず高音域でフィードバックが鳴るようにしたりできます。
「どうもイメージ通りの音が鳴らない」という時はここで調整してあげると良いでしょう。
右側の「TRANSPOSE」は文字通り、フィードバックの音程をより細かい単位で指定できるセクションです。以下の3つのツマミを併用します。
- Interval → 原音から何度離した音にするか。上下1オクターブの範囲で指定可能。
- Type/Key → 曲のキーを指定すると、それに沿った音程にする。指定はメジャー、マイナー、C(Am)~B(G#m)のいずれかを選択。
- Fine Tune → 半音以下の単位で音程をズラせる。デチューン的な用途で使う。
フィードバック同士をハモらせたり、メロディを歌わせたりするような積極的な使い方ではここを特にイジり回すことになるでしょう。
なお、Blue Cat’s AcouFiendの全てのパラメータは、オートメーションやコントロールチェンジで操作が可能です。イントロだけオンにしたい時もトラックを分けずに済みます。
使ってみて良かったとこ
フィードバックをいつでも手軽に、精密に生成できる
何はともあれコレでしょう。
もう数秒の効果音のために1円でも安いスタジオを血眼で探す必要はないのです。
そして端的に言って、Blue Cat’s AcouFiendはフィードバックを自由に操れるという点において、通常の生録音より遥かに使い勝手が良いと言えます。
現実のスタジオ録音ではバシッとカッコいい音が録れるかどうかは、経験の有無や運が多分に絡んできてしまうものです。限られた時間では妥協せざるを得ない場面も出てくるでしょう。
しかしこのプラグインの場合、100%思い通りの音を鳴らせる上に後からいくらでも「フィードバックのリコール」が可能なので、気軽ったらありません。録音時に緊張感のかけらもないのでリテイクが増えて困ります。
単純に音がいい
今までシンセの疑似音色やDAWでリバース処理して作った音でお茶を濁していたので余計そう感じるのかもしれませんが、限りなく本物に近い音なので初めて聴いた時はかなりビビりました。
個人的には、アンプで鳴らした事がある人が聴いても十分納得できるクオリティだと感じます。勢い余ってハウらせてアンプがお釈迦、なんて危険もないのでフィードバックの余韻に好きなだけ浸ることができるのです。
少し違った使い方もある
若干小ネタ染みますが、純粋なギターフィードバッカー以外の使い方もできたりします。
1つ目はフィードバックを原音と同じ音程に設定することで、簡易的なサスティナーとして用いる方法。
上が適用前、下が適用後の音です。
音が持続して蹴られたファミコンみたいになっているのが分かるかと思います。プリセットにも「Guitar Sustainer」というものがある辺り、公式も想定している使い方のようです。
そして2つ目はギター以外の音に適用する方法。
入力された音からフィードバックを生成する仕組みなので、この動画のようにギター以外の音であっても使えるのです。
曲中でソロを飾るような楽器に噛ませてみると、今までなかったような表現になって楽しかったりします。もちろんボンゴに掛けて未知の音楽を開拓してみるのも良いでしょう。
唯一の弱点
人によっては問題にならないかもしれませんが、Blue Cat’s AcouFiendには1つだけ、アンシミュの前に刺さなければならないという制約があります。
つまり歪ませる前の生音に噛ませる必要があるので、例えばアンシミュを通してからインターフェイスに入れているような人は、一旦接続を変えなければなりません。
僕はまさにそういう人だったので、いつも使っているハードのアンシミュで鳴らそうとすると接続し直しの手間がハンパなく、ソフトのアンシミュを余儀なくされる結果となってしまいました。ここだけが唯一残念だった点です。
歪ませた後に挿しても微妙に効果は得られますが死ぬほど鳴らしにくくなったので、何か理由がない限りはライン音の直後に挿すようにするのが無難でしょう。
ニッチに全力を掛ける企業
需要のわりに意外と方法が無かったフィードバックの収録ですが、さすがにここまで全部盛りの手段が現れるとは思いませんでした。
「スタジオに行かなくていい」という引きこもり特攻を持っている時点で逆らうべくもないのですが、自分の中で本当の意味で替えの利かないプラグインになりつつあります。外国の会社に手綱を握られる経験はこれが初めてです。
Blue Cat Audioのプラグインは他にも独特なモノが多いので、今後も折を見て取り上げていこうと思っています。もう普通のプラグインでは興奮できないという方はぜひ、次回もご覧頂けますと幸いです。