「決まった……!」
長い長いレコーディングを経て、ようやく確信できたベストテイク。クオリティを追求できた喜びと、「やっと終わった」という解放感に束の間、心地よく身を委ねます。
やがて興奮も程よく落ち着き、自分が掴み取った成果を確認すべく、少し誇らしいような気持ちで再生ボタンを押すのです。
文句の付けようがない完璧なテイク。危ない表情で聴き入っていたその時、
「プツッ…」
愕然とする間もなくメーターを振り返ると、目に入ったのは無情にも点灯している赤いランプ。
気付かぬ内に全てが終わっていたことを悟り、レコーディングどころか創作活動からも足を洗い、姿を消してその後の行方を知る者は誰もいない……。
それが今までのDTMerやエンジニアを取り巻く現状だったわけですが、技術の進歩が目覚ましい現在において、この状況は変わりつつあります。
accusonus社製「ERA De-Clipper」はその象徴とも言える、クリップ(音割れ)してしまったオーディオファイルを修復し、自然な音質を取り戻してくれるプラグイン。
”うっかり”が取り返しのつかない事態だったのはもう、過去の話です。諦めてしまう前にもう一つだけ、試してみてはいかがでしょう。
ERA De-Clipperの概要
ERA De-Clipperは前述の通り、オーディオファイルの音割れを自然に修復してくれるプラグインです。accusonusというメーカーからリリースされています。
音割れとは、録音時に大きすぎる音量が入力されることで限界(0デシベル)を超え、ノイズが乗ってしまう現象です。
割れた時点で音質そのものが変化してしまっているため、たとえ後から音量を下げても割れた波形が小さくなるだけで何も事態は好転しません。
このDe-Clipperのコンセプトは、その失われた部分を謎の技術で修復してしまうというものなのです。異常…、いえ特異性が伺えますね。
効果の比較
実際に効果を聴いてみましょう。
適用前(※音割れしてるので音量に注意)
適用後
ビリビリ鳴っていたノイズが綺麗に修復されているのが分かります。なかなかの魔法具合だと言えるでしょう。
その効果は波形でも確認できます。左が適用前、右が適用後です。
ピークに達していた箇所が自然な波の形に修復され、あたかも元からそうだったかのような顔をしています。現金なものです。
音量全体も少し下げられていますが、De-Clipperのアウトプットで上げることもできるようになっています。
使い方と機能の特徴
使い方、と銘打ってはみたものの、このDe-Clipperでユーザーが細かく調整できるのはアウトプット(出力音量)のみです。
それ以外では「TYPE」と「QUALITY」が選択式になっている他、A/B比較とONOFFボタンが付いているだけ。シンプルを追求しすぎて無印良品みたいな印象です。
主要な機能については下記にまとめていきます。
TYPE
De-Clipperの処理方式を「TYPE1」と「TYPE2」から選択することができます。
マニュアルに寄ると基本的にはTYPE1を使用すればいいようで、それで上手くいかない場合はTYPE2を試してみてほしいとのこと。上で貼ったサンプルはTYPE1での処理です。
実際にTYPE2も使用してみましたが音源によって相性があるのか、効果が出たり出なかったりします。
TYPE1と比較すると高音域が強く削られるようになり、より強くクリップ除去を行おうとしている印象を受けます。
QUALITY
処理の品質を選択できます。
STANDARDいらなくね?と思ってしまいますが、HIGHは高品質と引き換えにCPU負荷が強くなるため、重いプロジェクト等では使えない場合があります。ちなみにDe-Clipperにスタンドアローン版はありません。
基本的にはSTANDARDで十分な効果が得られるので、CPUに余裕がある時はHIGHも使える、くらいの認識がよさそうです。
OUTPUT
De-Clipperを通した後の信号の音量を調整できます。
このOUTPUTを上げすぎるとDAW側のピークを越え、修復された信号が再度クリップしているように聴こえることがあります。
OUTPUTの横の赤いランプが点いていたら上げすぎのサインなので、光らなくなるまでOUTPUTを下げてあげましょう。
ON/OFFスイッチ
単純にプラグインをオンオフできるスイッチです。
当初、真ん中辺りにあるDE-CLIPボタンと機能被ってるやんけ!と思っていましたが、ON/OFFスイッチでオフにするとOUTPUTの音量設定もオフになってしまうため、純粋にクリップ除去の効果のみを確認したい場合はDE-CLIPボタンを使用した方がいいでしょう。
所感、注意点
総評としては、とても良いです。万が一の時のための保険として導入しておく価値はあります。
結構バリバリに音割れさせた音源でも割と修復できているので、予期せず入ってしまったクリップ程度なら大分緩和できると思います。もうベストテイクを諦めなくて済むのです。
逆に注意点としては、
- あまりにも音割れが酷かったり、そもそも音質が悪い場合は効果が出にくい
- かけすぎると音質が変わっていくので、「全体のオケに混ぜたら分からない」程度で止めておくことをおすすめする
みたいな所が挙げられます。
試しにケリンや音割れポッターにも適用してみたのですが、スピーカーへ悪影響が出そうなノイズは若干緩和されたものの、さすがに普通の話し声やBGMに戻ることはありませんでした。何事にも限度はありますね。
しかしこのDe-Clipper、実はこの記事の執筆時点(2019/2/17)ではまだベータ版だったりします。
後日、正規版がリリースされました。見た目は変わりましたが、操作や各機能はそのままのようです。
送られてきた音割れ素材を半ギレで突き返してしまうその前に、一度De-Clipperを通してみてはいかがでしょう。
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