最初にハッキリさせておきましょう。
「いい音」の定義とは?
間違ってもそんな血を見る事態になるような話をするつもりはありません。このブログはあくまで平和的存在なのです。
サチュレーターを紹介するというのがこれほど緊張感を伴うとは思いませんでした。
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目次
Decapitatorはサチュレーターである
Soundtoysからリリースされている「Decapitator」は、所謂一つのサチュレーターです。
サチュレーターとは、アナログ機材に通した時の音質の変化をシミュレートするプラグインのことを指します。
便利さを求めてデジタル化を進めた人類が最後に求めたのがアナログの音とはなんとも皮肉な話ですが、とにかく高級なアウトボードを持っていなくても打ち込みの音に自然なアナログ感を付与できるので、大変重宝されています。
中でもDecapitatorはその完成度の高さに定評があり、これ一つでミックスの質をワンランク上げることができます。
僕はこれを始めて使った時、「安くて場所を取らない高級アナログ機材を出してくれぇ〜!」と叫ぶのび太にそんなものあるか!と叱ったドラえもんが「でも、そう言えば…」と渋々取り出す光景を連想しました。
なんかちょっと前にセールをしていて、やたらDTMer界隈がザワついていたので深く考えずに買ったのですが、今はもう完全に依存してしまっています。
ミーハーで良かったと思ったのはこれが初めてです。
パラメータ紹介
左から、
DRIVE …… 歪みの量。かわいそうだが5以降の出番はあまりない。
PUNISH …… 自爆ボタン。入力が+20dbされ、どんな音楽もバリバリボフボフの陽キャに。
THUMP …… LOW CUTノブで指定された帯域がブーストされる。ドラムステムでキックを聴かせたりできる。
LOW CUT …… どう見てもローカット。歪みの前に入るので、キックやベースのボフボフ回避に。
TONE …… 音を明るくしたり暗くしたりできる。
HIGH CUT …… やはりハイカット。サチュレーターは金物がうるさくなりがちなので、出番は多い。
STEEP …… ハイカットのカーブが崖みたいになる。その勾配は実に30db/oct。
OUTPUT …… 出力音量。歪みを足すと音量が上がるので、ここを下げながらDRIVEを上げ、バイパスしても聴感上の音量が変わらないようにすると変化が分かりやすい。
AUTO …… DRIVEで上げた分だけ自動でOUTPUTを下げてくれる。でも大抵同じにはならずデカくなってしまうので、頼りがいがない。
MIX …… DRY(エフェクト無しの実音)とWET(エフェクト音)の混ぜ具合を変えられる。激しく作った歪みをこれでうっすらかけると丁度いい塩梅に。
良いところ
音が良い感じになる
実感に即して書いたらもうこうなってしまうのですが、とても心地いい歪みが付与されます。
こればかりは実際に聴いてもらった方が早いでしょう。
聴感音量が同じになるように揃えた以外は、Decapitatorを差してDRIVEを4にしただけです。
オフ
オン
僅かに歪みが足され、少し太く、ルーズな印象になりました。
こういった変化が曲中でもたらす効果は地味ながらも確実です。
「ヌケ」とは違う存在感がプラスされます。「あと一歩押し出しが欲しい」という時にベストな選択だと言えるでしょう。
歪みの種類が5つある
Decapitatorは画面下部に5つのStyleボタンを配しており、どれを選択するかによって歪みの大まかなキャラクターが決定します。
それぞれ実際に存在する有名なアナログ機材をシミュレーションしたボタンなのですが、その名前を覚えるよりは「右に行けば行くほど歪みの激しいキャラになっていく」という事実を覚えた方が早いです。DTMには知識より経験がモノを言うような側面があります。
個人的な印象だと
「A」…… 最もクリーン。歪みというよりは音の質感を太くできる印象。
「E」…… ハイが少し上がり、押しのある元気な音になる。ドラムにとてもよく合う。
「N」…… かなりハイ落ちする。ローファイな音を作るにはいいかも。
「T」…… 割と強い歪み。コンプレッションされた感じが出る。
「P」…… わかりやすく歪む。”歪んでるで!”感を出したいなら使える。
という感じ。T、PはMIXの調整が必須です。
ピークが取れる
歪みが付与されることで僅かなコンプレッションがかかり、音のピークが取れてほどよく丸い音=聴きやすい音になります。
以下の画像は、Decapitatorを適用する前後の波形の変化です。
適用前
適用後
いわゆる「ヒゲ」が取れていますね。突発的なピークが無ければ耳に優しく、音圧も上げやすくなります。
コンプとは違う方向からのアプローチです。
若干アレなところ
PUNISHボタンの扱いに困る
海外製のプラグインにはえてして、日本の音楽ではまず使えないような音になるプリセットや機能が豊富に搭載されており、ただただ面食らう場面があります。
このPUNISHボタンもその類いであり、使いどころに困って目が合うたびに気まずくなること請け合いです。
そもそも海外と日本で好まれる音が違うので無理を言っているのはむしろこちらなのですが、有名なメーカーだからと言って全ての機能をマスターしないと使いこなせていないということにはならないので、変に気負わないようにしましょう。
金物の音質変化には注意が必要
サチュレーターは大体そうなのですが、DRIVEがきつくなっていくと高音域が持ち上がり、金物(特にハイハット)が耳に刺さり倒します。
丁度いい塩梅を見つけるためには曲全体を流しつつ、MIXをDRYから少しずつ上げていくのがお勧めです。
個人的使い方
たとえどんなにベロベロに酔って帰ってきてもまず間違いなくドラムには差します。
ピークの出やすいドラムの角を丸めるのにちょうどよく、同時に音の輪郭もハッキリするしで相性が良すぎて怖いです。STYLEはもちろん「E」。
パーツごとに差しても良いですしステムにまとめてかけても良い。つええ。
次点でベース。強めに作った歪みをMIXで薄く混ぜてやることでブリブリwwwwと主張の強い音が作れます。なんか悲しいときに聴くと元気が貰えます。
総じて何にかけてもプラスの方向に持っていってくれるので、感覚で「なんとなく変だな」と思ったパートに差して弄ってみるのをお勧めします。
そうして結局全てのパートに差して書き出した2MIXは、一つ大人な音がすることでしょう。
おわりに
買うと普通に2万くらいするDecapitator。勇気のいる値段ではあるものの、踏み出した者にだけもたらされる音は代用が効きません。っていうかechoboyも買えばよかった。
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そして全ての記事を書き終えてから、文中で何度も言った「アナログ機材を通して音質変化を得る」という意味を持つ「サミング」なる単語があることを知りました。
そういえばサミングアンプとか言うよなと思いはしたものの文章を置き換える気力は既になく、そんな単語など見なかったことにすることにしました。
いえ、皆さんはお気になさらず、ぜひ明日からドヤ顔で「サミング」を使っていただければと思います。