【DTM】顔◎、音◎、操作性◎のエンハンサー、Wavesfactory「Spectre Enhancer」【レビュー】

Spectre Enhancer

 

「なんとなく、ピアノの音が地味な気がする。」

 

一度そう思ってしまったが最後、疑念はどんどん膨らんでいきます。何日もかけて構築した後世に残る名フレーズが、よくよく聴けばただ伸ばしているだけのギターに押し負けてしまっているように思えてきてなりません。

不安に駆られてすぐさまイコライザー(以下EQ)で高域を持ち上げてみるものの、耳とスピーカーを害しそうな方向へ悪目立ちするばかり。かと言って他の楽器を下げるのは自分の中のイメージに反するーーーー。

我々DTMerはミックス中、こういった板ばさみ的状況に直面することが往々にしてあります。とはいえプロの音源では似たような状況でも両立できている以上、何か方法があるはずだと考えることもあるでしょう。

そこで「よし、ヴィンテージ機材を買おう」と結論を急ぐ前に、wavesfactoryのSpectre」を提案してみたい、というのが今回のテーマになります。

その特徴を一言で言うなら、「顔も音も良いエンハンサー」といったところ。現実だったら多分友達になってないですが、プラグインなら話は別です。

 

 

wavesfactory「Spectre」、そしてエンハンサーとは

Spectreは、いわゆる1つのエンハンサープラグインです。wavesfactory社からリリースされています。

エンハンサーとは、主に「音を目立たせるために倍音を付加する」エフェクトのことを指します。

これはあくまで僕の理解ですが、

  • エンハンサー … 元の音源にはない音の成分を生成して付与する
  • EQのブースト … 帯域のキャラクターを強調する

という点で区別されます。

ただ、Spectreに関してはEQとしての機能も持ち合わせているので、普通のEQでブーストするより自然で音楽的な強調が可能である、という点が強みと言えるでしょう。あと位相がズレにくいとかそういうのもあるみたいですがその辺は難しくてよく分かりません。

実際の音や操作性などについては後述するとして、何よりも先に文字通り目を引くのがそのデザインの良さ

Wavesfactory Spectre Enhancer

↓は他社のエンハンサーで有名な、wavesのVitaminです。

waves Vitamin Enhancer

少なくとも見た目に関してはハマジと花輪君って感じなのがお分りかと思います。まぁVitaminも古い製品なので酷な話なのですが。

「推しの顔が良い」と書くと女性ファンみたいですが、作業中のテンションを上げてくれるのでコレが結構侮れません。画面がオシャなだけで曲まで良くなったような気さえします。少なくとも作業が終わるまでは。

wavesfactoryは製品デザインに力を入れているらしく他のプラグインや音源もやたらとハイセンスなので、アナタも推しを見つけてみてはいかがでしょう。

 

機能、使い方、試聴、そして所感

Spectreは端的に言って、「5バンドのブースト専用EQ」といった体で設計されています。

Spectre Enhancer

フェーダーやツマミが主体の他社エンハンサーと比較するとその使いやすさ、見た目の分かりやすさは言うまでもないでしょう。基本的に目立たせたい帯域を押し上げるだけなので逆に迷いようがありません。

5つあるEQポイントはそれぞれ

EQポイントの項目
  • オンオフ
  • 周波数帯域
  • 増幅量(ゲイン)
  • 効果範囲(Q幅)

といった基本的なEQの設定値に加え、以下の2つを指定することができます。

 

音色(11種類)

キャラクターの違う11種類の音色が搭載されており、EQポイントごとに独立して設定することができます。

Spectre Enhancer

実際に↓の形で適用したものを用意したので聴き比べてみましょう。音の印象についても軽く併記しておきます。

Spectre Enhancer

 

適用前

 

Solid

文字通り明瞭な感じの変化。トランジスタの機材を意識しているらしい。

 

Tube

温かみがあり、角が取れる感じがまさにチューブ。汎用性が高い。

 

Warm

Tubeを強め、暗い印象にした音色。高音域での使用はお勧めできないとのこと。

 

Tape

サチュレーションっぽい感じで、少しアタックが強まる。ベースやキックと相性が良く、高音域には非推奨。

 

Class B

どことなく固い印象を受ける音。ドラムやパーカッションに向くらしい。

 

Diode

高音域での歪みが強め。イメージはディストーションに近いかも。

 

Digital

デジタルの歪みのシミュレート。ほんのり明るくなる感じ。

 

Bit

低域に反応するビットクラッシャーらしいが、変化はかなり微妙。

 

Rectify

高音域の歪みが激しめ。こっちのがよっぽどビットクラッシャーっぽい気がする。

 

Half Recify

Rectifyの弱い版。分かりやすい歪みが欲しい時用か。

 

Clean

歪みなしの、純粋なEQとしてのモード。変化はさりげない程度。

 

ジャンルにもよりますが、個人的にはSolid、Tube、Tape辺りが使いやすい印象を受けました。あとキックの低音をTapeで盛ってやるとドッシリとした重さが出るのがお気に入り。

 

ステレオ、モノラル、M/Sの切り替え

効果を及ぼす範囲(チャンネル)をポイントごとに指定できます。

Spectre Enhancer

例えばマスタートラックに挿した時、低音域のEQはMidのみ、高音域のEQはSideのみ適用することで「キックを中心で強調しつつ曲全体に広がりを与える」なんて処理が可能になるわけです。

Spectre自体がそれほど重くないこともあり、トラック、バス、マスターと使い所を選ばないのは嬉しいポイントです。

 

以上がEQポイントに関する項目で、後はSpectre全体の動作に影響する項目がいくつかあります。

 

Input、Output、Mix

どんなエフェクターにも大抵付いてるお馴染みのヤツです。

Spectre Enhancer
  • Input … 入力音量の調整
  • Output … 出力音量の調整
  • Mix … 原音とエフェクトの混合率

Inputは入力ソースの音量が小さすぎて十分な効果が得られない時に音量を持ち上げるために使い、Outputはエフェクトを掛けたことで上がった音量を下げるために使います。

Mixは原音とエフェクトの混合率を調整できるツマミですがSpectreの場合は少し特殊で、0%でエフェクト無し、100%でエフェクト音のみになるため、通常は常に50%で使用することになります。

ズラす時は微調整で数%程度、という使い方が多くなりそうです。

 

Spectre全体の設定

Spectre Enhancer

Quality(動作品質)

簡単に言うと「動作品質を3段階で調節でき、上に行くほど音質が良くなるが負荷が重くなる」という設定。

難しく言うと「オーバーサンプリングなし、4倍、16倍を切り替える。上に行くほどエイリアシングを抑えることができる」という設定。

大抵の場合、一番下の設定で問題ない。

 

UI size(画面サイズ)

画面サイズを変更する。でも普通に画面の端っこを掴んで拡大縮小できるのであんまり使わない。

 

Presets(プリセット)

単純にEQ設定のプリセット。各種楽器からボーカル、マスタリング用のものまで結構幅広く収録されている。もちろん自由に保存、読み込みが可能。

 

Mode(エフェクトの強さ)

Spectre全体の効果のかかり具合を3段階で選択できる。上に行くほど効果が激しくなる。EQの限界を超えて激しくしたい時に上げると吉。

 

De-Emphasis(EQのオンオフ)

オンにするとEQのブーストによる変化をオフにし、倍音の付加のみ残す。効果をさりげないくらいに留めたい時に使うとちょうど良かったりする。

 

所感のまとめ

「操作性の良さ」以外のポイントについて触れます。

音量は変えずに”量感”を増せる

通常のEQブーストでは盛った分だけその帯域の音量が上がってしまうのですが、エンハンサーであるSpectreは倍音の付加によって聴感上目立たせているだけなので、ミックスバランスを大きく変えずに欲しい帯域を厚くできるという決定的な利点があります。

分かりやすい例では低音に付加することで、小さいスピーカーで鳴らしても迫力のある音源にできたりするわけです。その用途では今まではMaxx Bassを使っていましたが、今後は高音域も扱えるSpectreに統一しても良いかなと思っています。

 

自然な音=嫌な変化をしない

中には強く掛けると耳に刺さる高音になったり、変にモコモコした低音になったりするものもありますが、Spectreはあくまで耳に心地良い形で変化するのが印象的でした。

「嫌な音にならない」というのは当たり前のようでいてなかなか難しい価値あることなので、見た目に釣られて手を出して良かったなと思いました。

 

現行のプラグインらしい使い勝手の良さ

特に音色の多さとM/Sに対応している事の2点は個人的にポイントが高いです。その2点が両立しているからこそ、複数の異なる処理を1台でこなせるのです。

単純に、気を抜いていると足りなくなりがちなサイド成分を押し出せて、手軽にミックス全体を充実させることができるというのも良いですね。ワイドナーを使うのとはまた違う広がりを演出できます。

 

音色は使い道に困るモノも

音色が11種類もある!と言っても、BitやDigitalなど余りに変化が微妙過ぎるものもあり、文面で見るほどの幅広さはないかな、というのが正直なところです。

個人的にはTape並みにハッキリしたキャラクターの音色が11種類だったらより嬉しかったかもしれません。今後のアップデートに期待がかかります。

 

用法、用量に注意

エフェクター全般でお約束みたいなものですが、あんまりハシャいで掛けすぎると行き過ぎたミックスになるので常に自分を律しなければなりません。

ミックスとしては変でないレベルでも長く聴くと聴き疲れするということはあり得ますし、自分ではなかなか気付きにくいので、やはりリファレンストラックが重要になってくるでしょう。

 

エキサイター、サチュレーター、そしてエンハンサー

効果が似ているエンハンサーとエキサイターとサチュレーターの違いは各所でよく論じられているところですが、なんかメーカーでも会社によって違う意味で使っていたりするので、もう全員で同じイメージを共有することは不可能なのではないかとすら思ってしまう昨今です。

エンハンサー エキサイター そんなのひとのかって ほんとうにつよいDTMerなら すきなプラグインで つくれるようにがんばるべき

自分で書いてて死にたくなりましたが、つまりはそういう事なのかもしれません。エフェクターとしての分類が何であろうと、Spectreが独自性を持っているプラグインであることは変わりのない事実なのですから。